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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン-黄砂に舞う羽根-

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第3章 いにしえの少女


 ジープでクーロン近くまで来ると、否が応でも巨大な鉄の塊が目に入った。
「なんですかあれ!?」
 とセレンが声を上げるのも無理はない。空を飛ぶ乗り物が一般的でないうえに、この飛空挺の大きさは尋常ではない。シュラ帝國が世界の誇る〈キュプロクス〉がそこにはあったのだ。
 ハンドルを握っていたトッシュが嫌な顔をする。
「あれは皇帝専用の飛空挺だ」
 すぐ近くに悪名高き皇帝ルオがいる。
 ぞっとした顔をしたのはセレンだった。
「でも、そんなまさか……クーロンは完全な自治領で、シュラ帝國は勧誘して来ないはずじゃ?」
 自由の名の元に繁栄と陰を築き上げてきたクーロンは、シュラ帝國の領土ではあったが、その自治は完全に独立国といっていいほどであった。
 ジープは迂回し、〈キュプロクス〉が停めてあるのとは反対の方向から街に入り、さすがに目立つジープはすぐに空き地に捨てた。
 街に入った四人はすぐに話し合いをはじめ、三手に分かれることにして、それぞれの方向に歩き出した。
 セレンはすぐに自分の教会に戻ることにした。あのときは一生戻って来れないかと思った。けれど、どうにか戻ることができそうだ。
 教会の前で通りまで来て、セレンは懐かしの教会を見上げた。
 数日見なかっただけなのに、どうしてこんなにも懐かしく感じるのだろうか。外観はなにひとつ変わっていないというのに。
 教会の静寂の中で、ただひとりの足音が鳴り響き止まった。
 セレンは美しき色彩が差し込むステンドグラスを見上げ、深い息を肺の底から吐き出した。
 所々襤褸がきて壊れてしまっている教会だが、このステンドグラスだけは、時が経つのを忘れたように輝き続けている。
 静かに微笑む聖母が赤子を抱きかかえている構図のステンドグラスは、まるで自分のことを象徴しているようだとセレンは思った。
 生まれて間もない頃に、この教会に拾われた。セレンは父と母の顔も、その名すら知らない。セレンを育ててくれたのは、若い神父と新米のシスター・ラファディナだった。その二人も、今はもうこの世にいない。
 ラファディナは若くして病魔に胸を犯され、この世を去ってしまい。神父もまた……。
 セレンは沈痛な表情をしながら、胸で輝くクロスを握り締めた。
 ―― この教会は自分が絶対に守りぬくと決めた。
 長い間、時が経つのを忘れて、セレンはずっとステンドグラスを眺めていた。
 静寂に包まれた冷たく硬い石の床に、ブーツの踵を鳴らす音が鳴り響いた。
 はっとしたセレンが後ろを振り向くと、そこには白い影が揺れていた。
「あなたは!?」
 セレンの声は上ずっていた。
 知っている。この女性を知っている。終日前に、この女性に襲われ教会を追われた――?ライオンヘア?。
 艶やかに微笑むライザが、
「お帰りなさい」
 と静かに声を響かせた。
 自然とセレンは一歩足を後退させた。
「なんであなたがここに?」
「人質が必要なのよ」
 せっかくあの人たちと別れたのに。平穏な日々が送れると思ったのに。自分の考えが甘かったことをセレンは悔やんだ。トッシュは自分もこれから帝國に狙われる可能性があると示唆していたのに。
 街の入り口で話をしたときも、誰かをセレンの護衛に付けると言ってれたのに。それを断ったのはセレン自身だった。
「わたしはもうあの方たちと無関係です。わたしを人質にしても無意味です!」
「あら、それはアナタが決めることではなくってよ」
「まったくそのとーりだな」
 第三者の声だった。
 教会の入り口に立ち、輝く白い光を背に浴びる人影。それは少年――いや、少女だった。その名はアレン。
「ったくよー、せっかく誘導作戦してもアンタが捕まったら意味ねえもんな」
 アレンの息は少し上がっていた。今さっきまで銃弾を浴びせられていたところなのだ。
 四人はクーロンに入り、三手に分かれた。セレンは教会に戻り、トッシュとリリスは坑道に向かい、そしてアレンは街で暴れていた。そう、アレンが囮になっている隙に、トッシュとリリスは警戒の網をぬけて坑道に入ったのだ。
 腹を擦りながら教会の中へアレンは入っていく。
「腹空いちゃってさぁ、文無しだからここでなんか喰わせてもらおうと思ったんだよ。そしたら変な女いるし」
 変な女とはもちろんライザのことである。
「坊やが単独行動してるって通信が入ったから、そちらに行こうと思ったのだけれど、教会にシスターが戻ったって聞いたものだから、この子を人質にして坊やと楽しく遊ぼうと思ったいたのに、坊やの方から会いに来てくれるなんて、嬉しいわ」
「坊や坊やうるせえぞ、俺の名前はアレンだ。呼ぶときはアレン様と呼びやがれ!」
 威勢のいいアレンを見て、セレンは心から安堵した。たまにはアレンの食欲も役に立つことがあるものだ。そのお陰でセレンは救われた。
 白い陰が動いた。〈歯車〉の音もなっていた。二人は同時に動作を取り、硬直した。
 神聖なる教会で、二丁の銃が抜かれた。だが、まだ牙は剥いていない。
 アレンの構える銃は雷撃を噴く〈グングニール〉。そして、ライザの構えるハンドガンもまた正体不明の魔導銃だった。
 二人の間に緊張という名の糸が張り詰められるが、それもすぐにライザの不敵な笑みによって解かれた。
「アタクシは銃を撃つ気ゼロよ。なぜなら、この〈ピナカ〉は荒々しい怒りによる、想像を絶する破壊の象徴。こんなのをぶっ放したら、アタクシの身体まで吹っ飛んでしまうわ」
 紋様が刻まれて入るが、それ意外は普通のハンドガンと変わらない。そんなちっぽけな銃が、想像を絶する力を持っているというのか――〈グングニール〉以上の力を。
「俺は撃つぜ」
 相手が撃たないのなら、アレンは勝ったも同然だ。しかし、ライザは嘲笑う。
「ならアタクシも撃つわ。同時に撃てばアタクシが勝つ。けれど、坊やが撃たない限りはアタクシも撃たない。まだ死にたくはないもの」
 相手の言葉が嘘ではないことにアレンは気づいていた。
 どちらも動けない状態で、第三者のセレンが叫んだ。
「教会の中で争いはやめてください!」
 と言ってから、小さな声で付け加えた。
「……やるなら外で」
 そうは言っても、二人は一触即発状態で、どちらも一歩も動けない状態だ。った。
 ため息を漏らしたアレンが、なんと〈グングニール〉の銃口を床に向けたのだ。
「外出んぞ」
「わかったわ」
 なんとライザも銃口を下ろし、アレンの提案に同意したではないか!?
 アレンは敵に背を向けながら教会を出て、ライザは最後まで銃を放つことはなかった。
 教会の前の通りに出た二人は、五メートルほどの距離を取って向かい合った。二人とも銃は構えていない。
 舗装されていない剥きだしの大地を踏み鳴らし、アレンは前屈運動をしながら独り言をごちた。
「さーてと、どーっすっかな。こっちが撃てばあっちも撃つだろ。でもさ、こっちが早く撃って、相手に撃たせる時間を与えなきゃいいんじゃん?」
「あれ嘘よ」
 ライザがボソッと呟いた。いったいなにが嘘なのか?
「嘘ってなにがだよ?」