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VISION 1-4

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ねずみのように離れない男に、春は苛立っていた。
「ついてくんなよ」
「俺、3年の金山って言うんだ」
「誰も聞いてませんが」
「なんでそんな冷たいんだよ~」
春は言うべきか迷ったが、怒りはしないだろうと考え、言うことにした。
「いやなんか、悪いことしてたじゃん。さらにそれを隠してたし。
 そういう人あんま好きじゃないんだよ」
「君もけっこう悪いことしてそうだけどね」
男はクスリと笑う。
春は思った。
講義をサボる点は、確かに悪い。しかし、
「おまえに言われたくねえよ!」
春は校門の外まで、300メートルを全力で走った。
男が追って来る気配は全くなかった。
物陰に隠れ、しゃがみこむ。
「くそ…暑い…」
落ち着かせたいところだったが、辺りを見回すと驚かざるをえなかった。
校門前にも人がいないのである。
涼の「テロ」という言葉が思い起こされた。
頼れる存在である彼と一緒にいるべきだと、このとき春は心の中で嘆いた。
「はあ、はあ、はあ…どうなってんだよ…どらえも~~~~~ん!」


「え!?どらえもん?」
「あ?」
白い光が春の顔を照らしていた。
「ちょ、まぶしいって」
「ごめんごめん」
光は消え、代わりにパチリという音で、蛍光灯がついた。
春は先ほどの教室にいた。頬にべっとり付いている涎を拭った。
「君こんな時間に何してんの?」
それは警備員だった。
いぶかしげに春の顔を覗きこむ。
「居眠りしてました…。あれ、居眠り!?」
春は、今の出来事を夢だと認識した。
そして時計は夜の9時を指している。
「そうかあ。良かった良かった。いや、どこまでが真実なんですか?」
「何が!?とりあえず早く帰宅しなさい。休校の話は聞いてる?」
「…」
「変な夢を見た人は病院で診察を受けて、落ち着くまで休校に」
「はいはい知ってます!帰ります!」


春は帰路を歩いている。
大通りはいつものように、世話しなく車が行き交う。
通行人の姿を見ることができ、ひとまず安心できた。
そして携帯を開けると、涼からの着信とメールが届いていた。
「脳の検査されたけど、結果出るのは1週間くらい先らしい」
「へえ…」
春は着信履歴に涼以外の名前を見つけた。
「真紀?」
咲原真紀も相模涼と同様の関係だが、別の大学に進んだことで会う機会も減り、
次第に連絡を取らなくなっていった。
春の気まぐれで、涼より先に電話をかけることにした。
「おお、どした?」
「久しぶり」
「ああ、半年か。そっちはどうなった?」
「うん!元気だよ」
「いやいや、夢のこと」
「あ!あはは、さっき病院から帰ってきたところ」
「そうかあやっぱ見たのか。でも大勢が病院に行ってる割りに、意外とすぐ帰ってこれたんだな」
「波形とるだけだったからね。春は大丈夫?」
「ああ、大丈夫っぽい」
「相模君も?」
「おう」
「そっかそっか。何も無いのを祈るしかないね」
「だな…」
そうして会話が終わり、次は涼へかけた。
「おい春、おまえ何してたんだよ」
「あ、いや、気づいたら教室でずっと寝てた」
「はあ?能天気すぎないか?病院、人でごった返してたぞ」
「ほう…」
「まあ検査だけだからあっという間に終わったけど」
「でもさ、それ検査するだけならぶっちゃけ数人でも良くね?」
「意味がわからん。おまえの理論はいいから、体調おかしくなったらすぐ行けよ」
「はいはい」


春は自宅の玄関を開けた。
「おかえり」
「母さん、今日なんか夢見た?」
「あ!それそれ!朝ね、春が言ってた夢、母さんも見た気がするの!」
「なんじゃそりゃ…父さんも?」
「あ、どうだったかしら。もう寝ちゃってるから」
「そうか。なんか大変なことになってるらしいよ」
母親は驚くが、春は無視して2階の部屋へ上がった。
「ふう…」
ベッドに転がった。
体調にも違和感はなく、休校ということで、
面倒な大学から開放された気分が前に出ていた。
「しゃー!寝るか」
「ねえ春!」
母が階段を上り、部屋に入ってきた。
「なんだよ!」
「何が大変なの?母さん心配で寝れない」
「あほか!インフルエンザで休校になったんだよ」
「そうなの!良かったね!遊び放題じゃない」
「それイヤミなのかマジなのか…」
「ふっふ」
「変な笑い方するなよ。もう寝るから俺」
春は部屋の電気を消した。
作品名:VISION 1-4 作家名:みつや