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海竜王 霆雷1

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「俺に足りないものって、何だと思う? 」
 寝台でのんびりと横たわっている俺の主人は、そう尋ねた。
「足りないもの? 体力か? 」
 冗談ではないのはわかっていて、冗談にした。主人は、頬を歪めて、「それもあるな。」 と、答えて目を閉じる。全てが完全に備わっているものなど皆無だ。どこかが欠落していても、それを補うものがあれば、問題はない。俺の主人は、体力のないことに対して、それを補って余りある能力を携えている。だから、足りないものがあると嘆く必要はないはずだ。
「俺に足りないものは、カリスマ性というやつだ。」
 だが、主人の口から発せられた言葉に、俺は、ある意味、納得したのも事実ではあった。確かに、この広大な敷地を完璧に管理しているし、とんでもない能力も持っている主人だが、穏かな姿の人物だった。誰もが、その絶大な権力と能力に平伏してしかるべきはずなのに、誰も、そんなことはしていない。むしろ、軽口を叩いてみたり、叱責していたり、と、どちらかと言えば、気安く付き合っているのが実情だ。主人は、それでよいという考えだったから、それに対しての不満はないのも解っている。
「確かに、それはないな。そうでなければ、俺は、おまえに、こんな口の利き方をしていない。」
「いや、俺は、これでいいんだ。そういう性分だからな。・・・・けど、ここを維持するには、それも必要なものだ。いや、むしろ、次には必然となるかもしれない。」
「はあ? 」
 主人の言うことは、よくわからなかった。後々、それを俺は理解した。たぶん、足りないと言ったのは、現状の恒久的平和の中でこそ、必要とされるものという意味だったのだ。




 世界は、どんどんと変化していく。出生率の低下が叫ばれて、危機的状況に陥った時、この行政区域は、画期的な決断を下した。低下するのは家族単位で考えるからだと、気付いてしまったからだ。つまり、家族単位で考えないのなら、出生率は機械的に管理できるものとなる。
 もちろん、家族単位で子供を出産し育成するという本来の方法は残っているが、それでは補いきれない部分については、人工的に生み出されることになった。無作為に選出された卵子と精子によって、子供が作られることになったのだ。それによって、年代別の人口も安定した。
 そういう経緯で出来た子供は、基本的に国の機関で育てられる。たまに、養子縁組で家族として引き取られることもあった。
 俺の場合は、大変な変わり者の養父に引き取られた。引き取った理由が、「財産を国に帰属させたくない。」 というものだった。だから、教育熱心でもなかったし、世話をしてくれなんていうこともなかった。かなりの財産を持っていたから、わざわざ、養子にした俺に介護させる必要もなかったのだ。それに、引き取られた時、養父は、既に寝たきりでもあった。
「ファイルできみの顔を見て、ぴんときた。まあ、テロリストに相応しい容姿だと思ったよ。」
 初めて、対面したら、そんなことを言った養父は、何の希望も期待もないから好きに、この財産を食い潰してくれ、と、だけ希望を述べた。わざわざ、ここに住む必要もないし、家族ごっこをする必要もない。友だち付き合い程度でよいとも言った。
「それは、ここに住んでもよいということか? 」
「住みたければ住めばいい。」
「何かして欲しいことって、本当のないのか? 」
「・・・うーむ、そうだなあー。手品でもやってもらおうかな。暇つぶしに。」
 俺のファイルには、そういう特殊能力があることも記されていた。普通にはないが、普通には必要のない能力というものがあった。だが、それがあるからと言って、別に、特別な報酬があるということもない。むしろ、気味の悪い子供ということで、養子になることはないだろうとも言われていた。
「あれだけではないだろ? あれは、物心つく頃の能力値じゃないかね。」
「別に、そんなに強くはない。そうでなかったら、今頃、国家機関に拾われている。」
「なら、そういうことにしておけばいい。私の生命は、ここ、一年ぐらいらしいから、それまでに私に頼みたいことがあれば、弁護士にでも依頼してくれ。」
 それから奇妙な共同生活は始まった。病院に入ることを拒絶した養父は、治療というより安楽死への準備みたいなことだけやっていた。半年を過ぎる頃から、痛み止めの所為で、ほとんど朦朧としていたけど、俺には関係なかった。お互いに、心で会話していたからだ。イメージつきの昔話に相槌を打ちながら、こちらも原風景みたいなものをイメージで送る。ただ、そんな遣り取りをして、別に、家族らしいこともしなくて、ゆっくりと時間は過ぎてしまった。
「もう、これでお別れだ。一年付き合ってくれて、ありがとう。」
 その言葉を最後に養父は身罷った。たぶん、養父も、そういう能力のある人だったのだろう。それが、俺に財産を残した理由かもしれない。





 生活は別に、何も変わらなかった。学校の教育というのが性に合わなかったから、通信プログラムで教育は受けた。だから、別に外へ出る必要もなかった。穏かで静かな時間が、ここにはあって、それ以外に何もなかった。養父も、人工的に作られた人間だったから家族とか血の繋がりはなかったのだ。まだ未成年だから、表で働くわけにも行かなくて、とりあえず、家に居た。毎日、どこかへ出かけていたけど、それだって近所の浜辺まで散歩する程度のことだった。夏になれば、そこで泳いで、冬は、堤防に寝転んで海を見て、そんな生活が一年、また続いていた。






 そして、そこで不思議なものと出遭った。
これからの人生が急変するような出逢いだった割りに、
なんていうか、不思議なものだったとしか言えない。






 父親が倒れたという連絡が入って、急遽、帰郷した。連絡自体が、遅かったので、父は、すでに眠り病からは覚めていた。私の姿を見て、「元気そうで、何よりだ。」 と、微笑んだ。
「どうして、すぐに連絡してくださらないのですか? 父上。あまりに薄情ではありませんか? 」
 父が倒れたと聞いて、私は仰天した。たまに倒れるが、それでも、倒れるのは、何かしらやった結果だからだ。この父は、絶大な能力を有しているが、如何せん、体力がない。だから、無茶な使い方をすれば、しばらくは眠ってしまうのだ。
「薄情とは、また・・・・ひどいことをお言いだねぇー、美愛公主。別に、大したことではないから、知らせなかっただけだよ? 」
「そんなことはありません。父上が、お倒れになるということは、とんでもないことをなさったに違いありません。」
 この父は、自分のために、その能力を使わない。不殺を信条として、けっして、傲慢な理由では使わない。その父が倒れたというからには、それなりの事件があったに違いないからだ。もし、父で対応できないほどのことなら、私も手伝うつもりは満々だったのに、「別に、もう終ったよ。」 と、父に呆気なく宣言された。
「はあ? 今度は何をされました? 」
「いや、別に、これというほどのことではないんだ。・・・ただ、距離があったんでね。それより、婿探しは如何なものだね? 」
「・・・なかなか、出会いというものは難しいものです。ぴんとくるものがありません。」
作品名:海竜王 霆雷1 作家名:篠義