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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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5.

 

 ――――眠りの中。夢の中。現実から切り離された、優しい時間の中。
 暗闇の中、淡い光が見えた。そして、意識の底で、『なにか』が響いた。
    『―――、―――…』
 何。何?よく わから ない。き こえ ない。何?…――て、な に?

 ――――肌に風を感じる。
 木や鉄が焦げつく臭いが鼻孔をつく。
 体も、空気も熱い。
 
 ――目が覚めた。
 気絶していたのだろうか。
 ミミリは、額にぬめりを感じた。
 手を当てると、額が割れて頭から血が滲んでいるのが分かった。
 見ればフリルの付いたワンピースは所々破れていて、体中も擦り傷だらけ。しかも、全身が軋むように痛い。それでも、身体機能と生命維持に支障を来すような大怪我は負っていないようだった。
 さすがはマジェスターの体だ。あの凄絶な衝撃波を浴びて、地面に叩きつけられたにも関わらず、損傷は思ったよりも軽い。幼いながら、その剛性と柔軟さには我ながら驚嘆する。
 ミミリは、辺りを見渡した。
 まるで、地獄絵図だった。普段見知った帰り道が、まるで別の場所に変わり果てていた。
 山脈を望む湖畔沿いの、レンガ造りのタイルが整然と敷き詰められた道路。その路面には等間隔で木造りのベンチが設置されている。(――そのはずだった)
 ベンチの向こう側には、広大な芝生が広がっていた。
 そこは自然公園で、青々しい葉を茂らせる木々と、色とりどりの花々が咲き乱れる街の憩いの場として、住民達に知られている。
 下校時間の三時過ぎには、この界隈は人通りがぐっと多くなる。
 散歩や犬を連れて歩く人。ベンチに腰掛け読書に興じる人。マラソンコ―スでジョギングに精を出す人。色んな人が、思い思いの時間を過ごす憩いの場。(――で、ある筈だった)
 そうした活力と平穏に満ちた場所が、見るも無惨に、瓦礫と有象無象が散乱して転がる廃墟と化していた。
 これではまるで…戦争の跡地のようだ。
 レンガの道路は波打ったようにめくれ上がり、所々砂と泥がほじくり返された跡が見える。 ベンチは、ぐしゃぐしゃにひしゃげ、折れ曲がり、地面に突き刺さり。歪なオブジェクトと化していた。
 折れた木々や倒壊した建造物の下敷きになった人もいるようで、あちこちから痛みに喘ぐうめき声が聞こえる。中には、衝撃波で吹き飛ばされた折り、地面や木、構造物に叩きつけられ、絶命した人もいた。
「…っ!」
 視界の中に、赤黒いものが映った。もともとがなんだったのか判らない、赤黒い肉片のような物があちこちに飛び散らかっている。
 ミミリはそれを見て吐き気を催しそうになったが、強い意志でぐっとこらえて我慢した。
 所で…。何か、忘れてはいないだろうか。
「ツツジ…!」

 ――心と体がズキリと痛んだ。

 ミミリは、痛みを堪えて、傷だらけの体を引きずってツツジを探し回った。
 
 ――不安が心のなかで膨れ上がっていくのが分かった。
 
 失うのが嫌だった。大事なオモチャを壊した時、せっかく描き上げた絵が汚れた時、決まって黒い虚無が心を塗りつぶした。
 それはたまらない喪失感を心にもたらし、実に大きいストレス(過負荷)となってのしかかった。
 だから、自分は物を大切に扱い、大事にすることを心がけた。
『あんな”痛くて重い”のは嫌だ』
 それこそ、姉妹同然の自身の片割れでもある彼女を――
 ツツジを失えばどれだけの虚無が心を押し潰すのだろうか。
 想像するのも嫌だった。
「ツツジ!」
 いた。いてくれた。生きている。
 公園の中央。水飲み場の側でツツジは気を失っていた。多少の外傷は見られるものの、鼻孔から聞こえる呼吸のリズムからして重大な怪我は負っていないように見える。
「あ…つつ。ミミリ…」
「大丈夫、ツツジ。痛いところ無い」
「…ったく、あったりまえよ。そういうアンタは…大丈夫?こら…、血出てるじゃない」
 弱々しい声だったが、いつものツツジだ。
 その声を聞いて、思わずミミリの涙腺が緩んだ。
「うん、大丈夫だよ。私の心配なんていいよぉー…えぐっ、ひぐっ。…無事で、無事で良かった、良かったよぉーぅ…」
「泣くんじゃないわよー。泣き虫ミミリ」
「うわぁぁぁん」
 ひとしきり泣いた後。ツツジが、ミミリの額の怪我を応急処置してくれた。
 料理・スポーツ・勉強。何でも一通りこなせるのが、”普通”を旨とするツツジの特技でもある。救護処置もその一つだというのだから恐れ入る。
 その後、二人は両親の安否を確かめるため携帯端末で連絡を試みたが、結果は徒労に終わった。
「だめね、連絡つかない。携帯繋がらないわ」
「私もです。ネットもメールもダメ。サーバーがダウンしてるみたいで」
 先程のメテオインパクトが起こした衝撃と電磁波の乱流で、通信インフラがダウンしてしまい、あらゆる通信手段が使用不可能になっていた。交通機関は全面運行中止。ライフラインも言わずがな、断絶状態。水道管は破裂して、道路に水溜まりを作り、地面に敷設された送電ケーブルや、ガス管などもむき出しになってへし折れているくらいだ。
 街の他の場所も、公園付近と似たような有り様かと思っていたが、街の中心部以遠はグラウンドゼロからは遠く離れていたため、火災による煙や火の手、車両事故の発生はいくらか見られるものの、その被害はまだ軽微な方と言えた。
「しょうがない。ここで別れましょう。気をつけてね、ミミリ」
「うん、ツツジも。じゃあね」
 バーベナの市街地は、レンガが敷き詰められており、かつて地球にあった欧州を想起させる街並みとなっている。路上列車の路線が街の四方八方に張り巡らされ、
路面と同じようなレンガ造りの建造物もあれば、木造の建築物もある。
 バーベナは地球の文化を、形状遺産として語り継いでいる街だった。
そのクラシックな情景を、警察車両や消防車両がけたたましくサイレンを鳴り響かせて行き交う喧騒の中に、ツツジは消えていった。