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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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10.



 光の粒子が立ち昇る中、ミミリは床に倒れ込んだ。手足を大の字に開き、肩と胸を上下に揺らし、ぜいぜいと息を吐く。顔にはびっしりと汗が滲んでいた。
 ヒューケインが立て膝をつき、その顔を覗き込んだ。そうしてミミリの顔に手を伸ばし、汗に濡れて顔に張り付いた髪の毛を指先でそっと払い、その柔らかい頬を優しく撫でた。
「よく頑張ったなミミリ」
 そう言うヒューケインの声に、ミミリは父性的な優しさと温かさを感じた。ミミリは息を切らしながらも柔らかく目を細めて答えた。
「は…はい…」
「お二人ともー、大丈夫ですかー?」
 宙を飛びながら、栞がスロープの向こうからやって来た。彼女の後ろには、女性士官を抱きかかえたエリカと、深冬の姿もある。
「おう、栞。みんなご苦労さん」
「いえいえ。残った変異体達は三人で始末しておきましたよ。後顧の憂いは無しです」
 ヒューケインは、フェイスマスクをオープンして素顔を晒し、
「さすがだねぇー。んじゃぁ、ちゃっちゃと脱出しようぜ」
 疲労困憊したミミリを肩に担いで、脱出口区画の方へと足を向けた。
 その時である。
 金属の壁を押しのけ、へし折り。真珠色の雄牛――<ラース・カーフ>が再度、ヒューケインの眼前に現れた。巨大な体が通用路を隙間無く塞ぐ。先程の個体より、ずっと大きい。
「おいおい…、もう一体いやがったのかよ…!」
「いいえ。どうやら、新しく”創られた”ようですね」
 状況を即座に分析した栞が言った。
 アクトゥスゥは高次元の領域に本体を置く概念体である。素粒子サイズの彼らや変異体は、この宇宙で活動する為、そして情報を収集し本体に送信する為の子機に過ぎない。彼らは、個体同士で情報を共有するネットワークを持っている。全で一。一で全。それがアクトゥスゥの生態であった。――解析により、現段階ではそれが一般的な通説となっている。
「先程の戦闘の体験を元に、変異体達を寄り集めてでっち上げたって事か?」
「そう考えられますね。私達に対して”有効”だと踏んだのでしょう」
「全く、嫌がらせにしちゃぁホントに”有効”過ぎるぜ。たった一体でも手を焼いたってのに。この上オマケのもう一体。どうにもなんねぇぞこりゃぁよ…」
 ヒューケインの言う通りであった。先程と同様の手段で<ラース・カーフ>を葬る事は難しい。いや、実質無理だった。窒素を造り出そうにもミミリの体力はもう既に限界。作戦の中核を握る彼女がこの有様では<ラース・カーフ>を倒す事は適わない。
 突如、内から響くような爆破音が聞こえた。次いで、艦全体が上下左右に揺れた。強い揺れにたまらずたたらを踏む一同。
 エリカが、鋭い感覚で拾い上げた情報を皆に伝えた。
「ジェネレータールームからですわね。メインエンジンが破損した様ですわ。…この具合だと、後十分、いえ七分と持たないでしょうね」
 再度、爆発音。そして、強い震動。
 後ろの方で、スロープがバキバキと軋む音を上げ崩落した。
 断崖絶壁と化した通用路から、黒い影がぞろぞろと這い出てくるのが見えた。
「変異体!?始末した筈だろ!?もしかして…。なぁ、栞……まさか…」
「ええ。この艦の対Aコーティング機能が不全を起こしたのでしょう。保護を失った構造物がアクトゥスゥ素子に汚染されて、変異体と化した…。そういう事でしょうね」
 前門の虎後門の狼。進路を阻まれ、退路を阻まれ――一同は行き場を失った。
 後七分もしない内に、この艦<スイレーン>は内から崩壊し爆散する。一刻の猶予も無い。
 逼迫した状況に迫られ、焦りの空気が一同の間に漂い始めた。
 躊躇している暇は無い。ヒューケインは即座に判断を下した。
「深冬!<ラース・カーフ>を凍らせろ。エリカは凍結した<ラース・カーフ>の半身を砕け。栞は、ソードで対応。強行突破するぞ!」
「了解(コピー)!」と答え、深冬は能力を発動。<ラース・カーフ>を凍結させようとした。
 ――が。
「がふッ…!」と、咳き込む声と共に、深冬はその場に頽(くずお)れてしまった。
「がふ…っ、ごふ…っ…!」
 口を押さえて咳き込む深冬。その掌から赤い物が零れ落ちる。――血だった。
「――…あぁ…、はぁ…っ…、あ…ふぅ…」
 息も精々。苦痛に顔を歪め、目の端に涙を浮かべる深冬。彼女もまた、限界だったのだ。
「深冬ッ!」
 叫び、深冬の傍に駆け寄るヒューケイン。
 ミミリは、弱った深冬の姿を見て悲哀の表情を浮かべた。
「そんな…深冬さん…。私は大丈夫ですから…深冬さんを」
 ヒューケインは「ああ…」と頷き、ミミリをその場に下ろした。彼は深冬の傍らに座り、その背中をさすった。
「すまない。お前も限界だったんだな」
「…はぁ…は…ふぅ。そんな…事言っている場合じゃ…ないでしょう。私の…心配なんて…。この状況…、覚悟は…出来ているわ…」
 『覚悟』――その言葉を聞いて、ヒューケインは深冬の考えを察した。自らの能力と<アクエリアス>をオーバーロードしてこの場にいる敵を全て片付けようと言うのだ。その代償として支払われるのは――…。
「馬鹿言ってるんじゃねぇよ…。お前が命を散らす必要なんてない」
「では…どうすると…言うの?誰かが犠牲にならず、どうこの場を切り抜けると言うの?私なら丁度良いでしょう。死にかけ、這々の体…。決死の特攻を掛ける駒としては申し分ないわ…」
「おい、自分をそんな風に扱うなよ。深冬みたいな綺麗で素敵な人が失われるのは心が痛む」
「…フフ。こんな時まで軽口を叩くのね…あなたは」
 儚げに微笑む深冬を見て、ヒューケインはフッと口端に笑みを浮かべ、
「なぁ、お前もそう思うだろ――」

「凛」

「あぁ、同感だな」
 <ラース・カーフ>の背後から抑揚の無い機械的な声が響いた。
 緋色の<アクエリアス>を身に纏う『最強』のマジェスター。凛・A(アキレア)・アルストロメリアの姿がそこにあった。彼女の後ろにはツツジの姿もある。
「君の様に優秀で、優美なマジェスターが失われるのは実に惜しい。大きい損失だ」
 凛は、ゆったりとした動作で、背後に並ぶ四本のモノリス(デバイス)――<リソース・パニッシャー>を二本手に取り――両手に携え、
「――さぁ、作業を始めよう」
 冷酷、冷淡に言い放った。
 凛は頭上で<リソース・パニッシャー>をぐるんと一回振り回して、<ラース・カーフ>の背中に叩きつけた。真珠色の装甲が液体と化し爆ぜ飛ぶ。床に液状化した細胞の飛沫が散った。
 すぐ様、情報破壊された部位が再生を開始する。が、凛の能力はそれを許さない。
 凛の目が燐光を放ち、分子制御を開始。液状化した部位が飛沫のまま固形化し、凝固した。
「ツツジ!」
「はい!マルチカノンAモード!貫徹、突貫!」
 ツツジの背中に展開されたマルチカノンが槍状に変化。すかさず飛翔。<ラース・カーフ>の体内に深々と突き刺さる。そして砲身から弾丸を一発放つ。高圧縮されたビームの榴弾だった。
 高負荷の物理衝撃に耐えきれず、真珠の体に亀裂が入る。
「もう一発!マルチカノン連結。ッてぇ―――ッ!」