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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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2.



 高速艇に乗り込んだヒューケインと凛を除く一同は、駆け込むようにキャビンシ―トに腰を下ろした。
 高速艇の内部は、コックピットとキャビンが一体となっている。
 コックピットシートには、ミストルティン直属の高速艇パイロットがすでにスタンバイしていた。パイロットもプランタリアを卒業したマジェスターなのだろう。挨拶に出向いたヒューケインと凛に向かって、パイロットは軽口混じりのやりとりをしてから「よろしく」と返じた。
 コックピットのサブシ―トにはもう一人、同行者がいた。
 『彼女』は、すっとさりげなくシ―トから腰を上げ、一同の前に屹立した。
 クリ―ム色のブレザ―に、パンツといった出で立ちの女性将校であった。階級章が示す階級は『三佐』。場慣れした佇まいに余裕を感じる。
 <超人>であるマジェスターは皆、個性的な容姿を先天的に『設定』されている。
 理由は単純。”皆を守るヒーロー<英雄>だから”。
『彼女』もその例にならい、アッシュブロンドの長い髪を、後ろで左右二つの輪として括り、頭の後ろに下げている。なかなかに奇抜で個性的な髪型と言えよう。
 左肩の下には、蔦が絡みついた剣の柄の上に、若芽が生えたシンボル。光の神バルドルを殺したヤドリギの剣(槍)にちなんでデザインされたという。それが<ミストルティン>の部隊章であった。
 『彼女』こそが、対A作戦課実働部隊<ミストルティン>の隊長――
「やぁ。久しぶりですねぇ、リ―ン・カサブランカ三佐。半年ぶり?相変わらずお綺麗で
何より。結婚申し込んでもいいすか?式場はいつでも用意出来るんで」
 呆れたような含み笑いを浮かべて、リ―ン・カサブランカが答えた。
「そんなのとっととキャンセルしてきなさい。結婚式に出れるほど暇じゃないのよ、私は」
「オーケー、左様で。じゃぁ、婚姻届にサインだけでも」
「ふぅ。アナタは相変わらずだね、ヒューケイン。残念だけど、私は一生独身って決めて
るの。いつ戦場で殉職するかも分からない嫁なんて貰ってどうするんだよ」
「そりゃ、お互い様でしょう。三佐は、長生きしますよ。美人薄命とは縁遠い方だと思いますしね。立ち回り上手だし、”あっちもこっち”も」うししと笑う、ヒューケイン。
「”どっちのそっち”よ。このセクハラ魔人。はいはい、どうもありがとうね」
 ヒューケインのアプロ―チを軽くあしらい、リ―ン三佐は佇まいを直してから、ぴしゃりと声を張り上げた。
「それでは、総員注目。これよりブリ―フィングを始める」
 一同にそう告げて、彼女は手元に現れたバ―チャルコンソ―ルを叩く。船内がふっと暗くなり、<展望台>で見たのと同じCGインフォメ―ションが狹いキャビンの中に図面展開された。
「現時刻より、八時間三十二分前。アルマ―ク星系外縁部宇宙を監視巡航していた213分隊巡視船が、<ガ―ベラ8>編隊を発見。同隊はこれと交戦。変異体を撃滅。
しかし、その八時間二分後に到来した七千二百十一体の変異体郡は、監視網を突破。
アルマ―ク星系内に侵入した。目標郡は、光速度の13.38%の速度で周回軌道を取りつつ
本星へと進行中。現在、アルマ―ク星系最遠の第九惑星<テ―タ・ヘカテ>より5.13光年離れた地点にあるアステロイドベルト帯を通過中だ――」
 確か、<テ―タ・ヘカテ>のラグランジュ点には、コロニ―<ハナキリン>があったはず。
 ミミリは約一年前、そこで世話になった安宿の女将、オハナ・ミナミの事を思い出した。
 コロニ―に変異体の侵入を許せば、どんな惨劇が彼女や<ハナキリン>の住民達に降りかかるのか。――想像してぞっとなった。  
「では、作戦の概要と目的を説明する。目標郡は、亜光速度で巡航している。第一作戦目
標は、目標郡の進行速度の減殺。『ヒグス重力子増幅慣性相殺装置』。つまりは、イナ―シ
ャルキャンセラ―効果を持つ、粒子波形レ―ザ―を広域に渡り展開照射して巡航速度を減
殺し、進行を遅らせる。これは、我が隊のマジェスター部隊が行う。第二目標は、目標郡
の撃滅。ここで、君たちの出番だ。我が隊と連携して、目標郡を包囲。分断し殲滅。後に
各個撃破。目標郡全ての撃滅を持って作戦完了とする。以上だ。何か質問は?」
 エンリオが手を上げた。
「アクトゥスゥ変異体はその生態性質として、量子情報密度の高い個体。つまりはヒトや
生物を優先的に狙って来ますよね。連中が予定進行コ―スを外れて、コロニ―や小惑星都
市、有人艦船などに向かった場合も、前述の作戦目標に則って行動するのでしょうか?」
「もちろん。最終作戦目標は、変異体郡の全撃滅。
状況やロケ―ションが変わろうとも、作戦に変更はない。優先するべきは、変異体のエイ
ス・イルシャロ―ムへの侵入断固阻止よ」
 リ―ンが言い終わるのを待って、今度はツツジが手を上げる。
「つまり、現地部隊の隷下に入らず、こちらの裁量で好き勝手やっていいって事ですよね?」
「ええ。ミストルティンは独立権限を持つ実働隊。他の部隊の影響は受けないわ。仮に彼
らが、変異体に襲撃され戦況芳しくない場合も、その限りではない。原則としては、救援
に当たることになるけど」
 ヒューケインが遮光バイザ―のブリッジを指で持ち上げる仕草を見せた。
「オ―ケ―。その場合は俺たちが受け持ちますよ。<ミストルティン>本隊には、心置きな
く目標郡の撃滅に当たって欲しいんで。その方が、そちらも動きやすいでしょう?」
「そうね、その方が助かるわ。他に質問は?」一同を見渡して言うリ―ン。
 ――返答は無言と沈黙。
「ないようね。作戦開始は、現時刻より二十五分後。GUC標準時2055時とする。では、
作戦区域到着まで総員待機。作戦開始時刻を待て」

 軍港にある一部の床は、スライドパズルのような移動床になっており、
船舶などは整備エリアごと移動し、発進用重力子カタパルトにまで運ばれる。
 移動床が動き出した所で、ヒューケインがミミリの隣席に腰を下ろし、こう話題を切り出してきた。   
「ところでミミリちゃん。アクトゥスゥの別名って知ってるかい?」
「あ―…、えぇと。いえ、そっちの分野はあまり。…えへへ」
「へぇ、博識なのに意外だな。じゃ、暇つぶしがてら一つ講釈と行こうか」
「はい。なんて言うんですか?」
 うん。と、ヒューケインが頷き。
「『神の出来そこない』さ。あらゆる物質、生命を変異させ支配しこの世にない物質に変化させる連中は、神に近しい存在だ。それ故、対A作戦課の名前は神殺しの剣ミストルティンにあやかってるってわけ」
 母フリッグの願いによって全ての生物・無生物に傷つけられない肉体にされた神。この世のあらゆる武器が通じない光の神バルドル。
 だが、世界に生まれて間もないヤドリギとだけは、若すぎて契約を結ぶことが出来ず、それが彼の唯一の弱点となった。
 その下りを、『神の出来そこない』であるアクトゥスゥに唯一対抗できる武器=存在。つ
まりは、マジェスターになぞらえている。それがマジェスターを運用する特殊部隊、<ミス
トルティン>の名に含まれたミ―ニングであった。