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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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2.



 遥か遠くの宇宙で、ほんの一瞬、光りが瞬いて煌くのが見えた。
 一つ、二つ、三つ…総計八つ。宇宙の闇を点々と白く照らした光は、刹那のうちに消え去っていった。
(恒星の光…それとも彗星かな。ううん、違う。それにしては儚すぎる)
 『少女』は、宇宙の空を見上げ、両手を広げ、宙に手を伸ばした。
 ―――そうすれば、この手に星をつかめそうな気がしたから。
 目の前に広がるのは満点の星空。
 冬の大三角形の一片を形作っていた星の一つ。かつて双子座の片割れであったポルックスの光が途絶えてしまってから一体どれだけの時がたってしまったのだろうか。
 現に、宇宙にあまねく星々の光は年々減ってきている。
 何十、何百光年という距離を経て、このアルセウス銀河に届いている星の光はずうっと昔のものだ。そう考えると、とっくの昔に星としての寿命を終えて、やっと光が途絶えたのだとも解釈できる。
 ただし――『今』は事情が違った。

 ただ単に、遠い宇宙に存在する恒星の寿命が尽きただけだとすれば、人々が関心を寄せるような大した意味がある変化ではなかった。
 一時の話題として、会話の端にあがることはあっても、時が過ぎれば忘れ去られるだけの他愛もない出来事。
 新しく星の定義付けを刷新するため、学者達の仕事が増えるだけの出来事。
 自然のサイクルだと割り切られ、時間と共に風化し忘却されるだけのそういう出来事だ
った。
 それを単なる一過性の現象とみなさずに、そこに異常の兆候を見出した者もいた。
 第一発見者である『彼女』は、兆候を感じた当人であり、以降も観測を続けた。
 そんな『彼女』を、世間の学者達は一笑に付した。”杞憂”だと。
 観測開始から数年後のある日、宇宙に異変が起こる。
 前触れもなく、星の光が突如、”消えた”のだ。
 星々は年、月、とうとう日の単位で、不自然な早さで減少していった。地上のカミオカンデが捉える、宇宙から降り注ぐニュートリノの量が減少しているのが、その事態を裏付けるなによりの証拠となった。
 後に言う、天体消失現象――いわく、『星喰い』であることの。
 『彼女』の研究を一笑に付していた学者達が、これが異常事態であることを要約認め、原因の仮説を述べるようになった段階で、人類は『彼ら』の存在に気がついたのである。

 今この目に映っている星の光も、来年。それとも明日にでも途絶えてしまうのだろうか。
 星々の輝きを消し去っている『星喰い』の原因である『彼ら』によって。
 宇宙の深淵、ボイドの縁から這い出てきた『彼ら』。
 ――ActS―Uw(アクトゥスゥ)<空間を伝播し物質を変異・変質させる素粒子生命体>。
 教本によれば――アクトゥスゥは素粒子サイズの生命体。極小の躯体を持つ彼らは、有機物・無機物に関わらず、接触した物質の電子層に入り込んで結合し、物質を侵食・変質・支配する特性を持つ。
 アクトゥスゥに侵食された物質・生物は異形へと変身を遂げ、人間を含む、生物・生態系を襲う驚異となる。
 我々マジェスターの使命は、人類の生活圏へ侵入しようとするアクトゥスゥ変異体を撃滅し、人を含む生命の生態系を死守・保全すること。
 マジェスターは、先天的に抗アクトゥスゥ因子を備え、遺伝子レベルから予め常人を凌駕する過剰性能(オーバースペック)を与えられている――…。
 暗記した教本の内容を頭の中で読み上げながら、その『少女』。
 ミミリ・N(ナデシコ)・フリージアは、一人宇宙の虚空を漂っていた。
 ヘルメットバイザーもつけず”素顔を晒したまま”。
 ミミリは、可憐でキャッチーな容姿の、愛らしい少女であった。躑躅色の髪を、リボンで左右にまとめ上げて結び、ハーフアップにしている。リボンから垂れ下がる髪の毛の房は、花のつぼみのようだ。
 そんな彼女が、なぜ宇宙を漂流しているのかと言えば――…。
(さて…どうしようかなぁ…)
 ガス星雲や、星と銀河が煌く宇宙の海で、ミミリはこれから自分の身に降り掛かる運命を想像するのも億劫になって、気分転換にもと思い教本の文面を思い返してみたが、結局なにが変わるわけでもなかった。
 抗アクトゥスゥ因子を含む流動液体でコ―ティングされた汎用防護航宙ス―ツ。AQUA―S(アクアス)の噴射剤はすでに底をついており、もはや行き先を定めことも出来ず。
 加えてスーツの生命維持機能は”事故”の衝撃で破損してしまい、現在ナノマシンが修復中。自身の『能力』で、体の周囲に空気の膜を形成し、その中で酸素を生産してかろうじて命をつなぎ止めているという状態である。
(お腹へったなぁ。あぁ…カツカレーが食べたいなぁ。三点堂のカツカレー…)
 危機的な状況にも関わらず、ぼそりとついてでた言葉は意外と呑気なものだった。
 人は生存の希望を断たれ余命を宣告された時、三通りの行動を取ると言われている。
諦観して事態を受け入れるか、発狂するか、現実逃避するか。
 はたして、精神的にもまだ未成熟な14歳の少女であるミミリはいずれのタイプにあてはまったか。
(まぁ…しょうがないかぁ)……。現実を粛々と受け入れるタイプであった。
 ただし、この”しょうがない”は、諦観から出た一言ではなく、これが”当然・想定内”という認識から出た物で、”全く問題ない・なんとかなる”という意味が込められていた。
(んー…。でもなぁー…)
 いつもならそう思えただろうが、ミミリは今日に至るまでの散々な出来事に正直”滅入っていた”。
(でも私のせいでたくさんの人、巻き込んじゃったし。死なせちゃったし…。こんな目に遭うのも仕方がないよね…)
 ミミリ・N・フリージアは、その身に不運を吸い寄せる。
 が、その持ち前の悪運は、あらゆる不幸と災難を跳ね除け、彼女を殺すことを許さない。
 思えば、あの日を境目にして、劇的に全てが変わり、全てがネガティブな方向へと向かうようになって行ったのかもしれない。

 ミミリは、今一度振り返っていた。
不運に纏わりつかれた艱難辛苦の日々と、明日に繋がるバッドエンドの半生を。