小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

all night!

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 

音痴







俺は水橋の歌はエンターテイメントだと思っている。歌唱力は正直人間のものか分からない。つまり下手だ。音痴というやつだ。少しズレたリズム感やかなりズレた音程。無駄にでかい声。謎のくねくねとした動き。そして何よりも楽しそうな顔である。お前は自分で自分の歌を聞いて悲しくなったりしないのか、と思うが多分生粋の音痴である水橋はそれもよく分かってないかもしれない。散々酷い歌唱力を指摘されているからそのへんは気づいているだろうが。


「水橋」
「おー?」
「お前曲入れた?」
「入れた入れた」
「何入れた?」
「Bz」


お前はまたそんな難易度の高い曲を!とりあえず盛り上がるので何も言わない。水橋はタンバリンを頭で叩きながら縦に揺れている。それを見て一緒に来てる奴らがムービーに収める。一緒にカラオケに来たときの毎回の習慣だ。爆笑のそいつらと暴走タンバリンの水橋、その横で俺はデンモクをいじる。そろそろ何か歌わねば誰かに得体の知れない曲を入れられる頃合だ。


「瀬名ぁ」
「何だ」
「俺あれ聞きたいな、あれ」


いつの間にか曲はしんみりとしたバラードに変わっていた。頭を左右に振って平衡感覚を取り戻しているらしい水橋が履歴をたどる俺のデンモクを覗き込む。あれ、という指示語のあとに口から出てきたのは少し昔のラブソング。


「最初のカラオケんときに歌ってたじゃん」
「・・・だっけ?」
「うん。うまいんだからもっと歌えばいいのに」
「人前で歌うの苦手なんだよ」


嘘だ。別に苦手でも得意でもない。俺は誰かの歌を聴いてる方が好きなんだよ。


「俺は好きだよ?」
「・・・だろうな」
「いや、瀬名が思ってるような意味じゃない、多分」


結構な音痴でもカラオケを自分の歌で盛り上げる術を知っている。好きじゃなきゃできない芸当だと思う。


「瀬名の歌が好きってことよ」
「え?」
「・・・声がね、好きなんだよ」
「・・・・・そりゃどうも」
「だから人前で歌うのが苦手なんだったらさ、」


まっすぐな男水橋は俺の言い訳に気づかない。


「俺のために歌ってよ」







作品名:all night! 作家名:蜜井