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里海いなみ
里海いなみ
novelistID. 18142
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かちかち山 その後

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兎に散々な目にあわされた狸ですが、「元を正せば、自分がおばあさんを転ばせて腰を悪くしたのがいけないんだ」という事に気付きました。けれど、今更謝りに行ってもおばあさんは会ってくれないでしょう。自分のせいとはいえ、狸は悲しくなりました。

狸が畑にいたずらをしたりおじいさんやおばあさんに悪さをしたりしていたのは、実は兎に構って欲しかったからなのです。その兎にもきっと嫌われてしまっているでしょう。
狸はますます悲しくなって、涙が溢れてきました。次から次へと零れる涙は止まりません。

ぽろぽろと涙を溢す狸の上に、影がさしました。


「……誰、だよ……」
「どうして泣いてるのさ?」


兎でした。

不思議そうな様子で狸の姿を見ています。泣いている所を見られたという恥ずかしさと、自分の事を嫌っていると思った兎が目の前にいるという驚きで狸の頭の中はぐちゃぐちゃになってますます涙が出てきました。


「なんで泣いてるのってば」
「うるさい……っ」
「火傷、そんなに痛い?」
「やけ、ど……?」


背中の火傷はもうすっかり治っていました。兎にからしを塗られた日の夜、狸のねぐらの前にこそっと置かれてあったお薬のおかげです。
涙を溢しながら、狸は首を横に振りました。少しだけ、兎が笑ったように見えました。

自分が泣いているから兎が笑ったのだと思った狸は一生懸命涙を止めようとしました。
何度も何度も目を擦り、しゃっくりを飲み込んでようやく少しずつ涙は止まり始めました。狸の目はまるで兎のように真っ赤です。
兎はやっぱり笑っていました。


「火傷が治ったのならおいで」
「……え?」
「おばあさんとおじいさんにね、僕も怒られたんだ。やりすぎだ、ってね。皆で仲直りしようよ」


兎の真っ白な手が差し出されました。狸は兎を見上げ、それから少し考えました。その間も兎は手を出したままじっとしています。

狸はそろそろと、その手を握りました。


「……ばあさん、怒ってるだろ……?」
「そうだね、君がごめんなさいしてないから」


兎は笑いながら続けました。


「僕も君にごめんなさいしなくちゃだけど」


狸は兎に手を引かれて歩き出しました。もちろんおばあさんに謝りに行くためです。
途中で小さな花を摘みました。白くてかわいい花でした。それを手に歩きながら狸は兎を見やりましたが、兎は狸に笑いかけたままで何も言いません。
なんとなくくすぐったくて、狸はそっぽを向きました。

やがて、小さな家が見えてきました。入口には二つの影が並んでいます。それは、おじいさんとおばあさんでした。
その姿を目にすると、狸は少し怖くなりました。思わず兎の手を強く握ると、「大丈夫、大丈夫だよ」と小さな囁き声がしました。兎でした。


「おや、おかえり」


おじいさんとおばあさんは、狸を見るなりそう言いました。狸はそれに答えず、さっき摘んだ白い花をぐっと差し出しました。


「……ごめん、なさい」


とても小さな声でしたが、二人の耳にはしっかり聞こえたようでした。狸が差し出した花を受け取り、にっこりと笑いました。
そして、狸の頭を撫でて言いました。


「もう悪さをするんじゃないよ、私たちはお前の事が好きなんだから」


狸は目をまんまるくして二人を見て、それから兎を見ました。
皆、にこにこと笑っています。


「僕も酷いことたくさんしてごめん、火傷は治った?おばあさんのお薬が効いてるといいんだけど」


狸はまた驚きました。ねぐらの前に置かれていたそのお薬がおばあさんのものだと初めて知ったからです。
それから狸はおばあさんをじっと見つめて「ありがとう」と言いました。


「さ、これで仲直り。二人とも中へお入り」


笑みを浮かべたままのおばあさんに誘われて、兎と狸は手を繋いだまま家の中へ入りました。


「……」
「ねぇ狸君、これからはさ、もっと仲良くしようよ」
「……うん」




それ以来、畑を荒らされる事はなくなり、仲良く遊ぶ兎と狸と、その姿を見守るおじいさんとおばあさんの四人は幸せに暮らしたという事です。
作品名:かちかち山 その後 作家名:里海いなみ