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神の誤算

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 天高く聳える人間の目には見えない神の城。
 それは丁度、日本という小さな島国の真上に位置する雲の上に存在していた。
 神は時折、人間界の様子を長く伸びた白髭を撫でながら舐める様に探る。

 悪い子はいねぇがぁ。良き行いをしている人間はいねぇがぁと、何でも見通せる杖を下界に翳してみては、朝二時間、昼二時間、夜二時間と時間を区切り仕事をしていた。

 そんなある日の事である。世界中が不景気に見舞われ、経済が破綻し、恐慌状態に陥ったのである。
人々は生きる事さへ間々ならなくなり、家を追われ、途方に暮れる人々が後を絶たなくなった。
 神は動揺を隠せなかった。長年生きてきて、人間がこの様な事態に陥ったとき、善人までもが生きる為に悪事を働いてしまう。
 
 温かいコーンスープを家族と共に啜っている小さな少女も家族の為だと体を売り、真面目に働き家族を支えてつづけてきた大黒柱は、リストラされたことを隠し、自宅近くの公園で妻の作ってくれた弁当をほう張りうな垂れる。
 そんな夫のリストラを女の勘でまるっとお見通しの妻は、近くのお醤油屋さんが自宅を訪問する度に、部屋に連れ込み快楽に浸る。
 更に、そんな家族の全てを知ってしまった思春期の少年はどん底に陥り、教育さへも受けられぬ貧乏さを呪い、一人家を出る準備を始めていた。

 
 神はこの危機を嘆いた。杖を下界に翳すたびに人間達の呻き声、泣き声、行き場の無い怒りの声が聞こえ、目に映る映像は余りにも悲惨なものばかりであった。
 食卓を囲む家族団欒の温かい笑い声が聞こえない。学校に通えない子供達は、笑顔を無くし尊敬されるべきである生みの親を呪う。
 結婚を控えていた二組のカップルは男のリストラにより、結婚を破棄されこの世界に反吐を吐く。
 朝陽が昇る神の居る空へ、老婆が膝を折り、胸の前に両手を組みながら悲痛に顔を歪め祈ってくる。
「子供達に未来を与えたもう」
 家族を信じられない、生き甲斐を失う、有り触れた当たり前の愛を見失い、ついには首を吊る人達が増える。

 神が人間達に与えた心は醜く淀み、人間が自ら作り上げた金という存在ばかりに囚われている。
そればかりは許されない。この世界は、金より大事なものがあるだろう。
 長考の末、神が導き出した答えは、金をばら撒く事ではなく、笑顔を世界中にばら撒く事であった。
 
作品名:神の誤算 作家名:桜井悠希