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最戒名耶螺の最初のお話

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なんで、どうして。

 思考は虚しくただから回るばかり。
現実逃避を試みるも立ちはだかる非現実がそれを邪魔する。
 
あれは、なんだ。
どうして私と同じ顔をしている。

誰だ。
なんで。
どうして、足がある。
なければまだ幻覚だの何だのといって目を逸らすことが出来たのに。

「すまない」

 黒く長い真っすぐな髪を垂らした女が口をひらいた。

「すべては、我々の罪なのだ」
 
 しまった、と思った時にはもう手遅れで、体はぴくりとも動かない。
金縛りか。だが、そういうのとは、なにかが違う気がする。
もっと何か、こう、圧力のようなものだ。
それが体にがっしりと絡み付いているようで、身動きがとれない。
私と同じ顔をした女は、怖いくらい真っすぐにこちらを見つめていた。

「でももう、こうするより他になかった」
 
 その眼差しは力強く

「巻き込んでしまって、すまない」

 しかし、どこか憂いを帯びていて。

「きっと血《わたし》は、お前を苛むのだろう」

血の色をした後悔は、とどまることを知らず

「お前はきっと、私を恨むだろう」

すまない

「貴女は、」

私は







 気付けばそこは、いつもの通学路だった。
当たり前だ。私は登校中だったのだから。
 今のは、なんだ。
白昼夢、だったのだろうか。
それにしては妙に現実味があって、生々しくて。

「……きもち、わる」

 気分がすぐれない。
頭のなかがぐちゃぐゃしてて、痛くて吐きそうだった。
ずいぶんと長い間白昼夢に捕われていたらしく、今からではどんなに急いだところで遅刻は免れない。
 仕方がない。
登校するのは近くの公園のベンチにでも座って休憩してからにしようか。
シスタにならって登校後に保健室で惰眠を貪るのもいいかもしれない。
ベッドもあるし、そっちの方が遥かに快適だろうな。

「…よし」

 そうと決まれば急いだ方がいいような気がしてきた。
慣れない頭痛はいまだ納まる気配を見せないが、学校に行ってみんなの顔を見て、それからゆっくり休めばきっとよくなるだろう。

何かが起こる予感がした。

 が、そんな何かが起こる訳がない。
これは現実であって、それ以外のなにものでもないはずなのだから。


 わかっていても、
それでも付き纏ういやな感じを振り払うように頭を強く振ったら、

平行感覚を完全に見失って
道路のど真ん中でみっともなく崩れ落ちるはめになった。