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A-3



 強姦されたんです――そんな衝撃的な言葉を女性は表面上はさらりと言い放ちました。けれどその内面までも平常であったわけではありません。何故なら、彼女の両の手は固くこぶしを作り小さく震えていましたから。

「妹は処女でした。あの男と結ばれる事を真剣に夢見ていたバカな子です。でも姉の私にとっては、その馬鹿さは純真以外の何ものでもなかった。あたし達を犯した男の中に、妹の愛した男はいませんでした」
「せめてもの救い……ですね」
 私が途切れ途切れにそう言うと、女性は首を小さく振るのです。
「いいえ、現実はもっと酷なものです。妹の惚れた男は‘更生’の管理者でした。穴穿たれ、魂を洗浄されるあたし達をただ見届ける――それがあの男に与えられた役割。無表情のまま、あの男は私達を見つめ続けてた! 妹はさぞかし悔しくて恥ずかしかっただろうとあたしは思いました。けれど妹は嘆いていた。……妹にとっては何人もの男に犯された事より、彼に感情が戻らないことの方が、悲しかったんです。彼が泣いてくれなくたっていい、輪姦されてる哀れな自分を蔑んで笑ったって良かったんです、妹はそれだけで意味を見いだせたのに……あの男は変わらなかった。無機質で無表情で……」
 私は女性に憐れみの目を向けてしまいました。こんな私が人を憐れむ事などしてはいけないのに。けれど、これは、あまりにも……。
「教団の人間はこうも言った! 『貧困の為に春を売る女を責める事が出来るだろうか? いや出来まい。生きる為だからだ。今お前達は魂が貧困にあえいでいるのだ。魂が生を求めもがいているのだ。魂の為に春を捧げるのだ。これは罪ではない。救済である。お前の体に穴を穿ってやろう。涙を流して喜ぶが良い』……バカバカしい! その生きる為の行為の結果、妹は自殺してしまった! 誰にもその理由を告げずに、告げる事なんて出来ずに!」
 そこまで言うと女性は大粒の涙を流し、その場に崩れ落ちました。
 私は彼女に差し出すハンカチも、綺麗に洗った手も持ち合わせてはいません。
 私が住むこの公園には今は他に誰もいません。彼女の泣き顔を見るものは私以外にはいないのです。

 人間は皆どこか同情されなくてはならないのです。誰からも憐れまれないなんて許されない事です。人を憐れむ事が出来ないなんて罪を放置しているのと同じなのかもしれません。憐れみは罪では無いのでしょうか。私はこの女性を憐れんでもいいのでしょうか。こんな私が、襤褸の浮浪者の私が。

作品名: 作家名:有馬音文