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マトリョシカ

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「動機? そんなのは、とってつけたものだよ。目の前のチャンスを最大限に生かしたついでだ。むしろ、トリックの方に動悸が関係するくらいだよ」
 探偵役がビシッと、ペースメイカーを指さす。これから、期待の推理編だ。しかし、その期待を裏切るように、バックスペースキーを長押しする。
「こんなんじゃダメだな」
 解決編まで入って結局納得がいかず、ゴミ箱へ捨てる。紙をめくるような音を立て、ゴミ箱は空に。
「良いアイディアが浮かばない」
 スタート、全てのプログラム、アクセサリ、ゲーム、ソリティア。トランプゲームが起動する。好調な滑り出しだ。エースが四枚も表で出ている。
 しかし、残念。
 良い手で始まったのに、五分もしないうちに詰んだ。
「ダメな時には何をやってもダメだな」
 手元のグラスには、ストローと溶け残った小さな氷しか残っていない。
 ふらふらと、席を立ちドリンクバーへ向かう。残った氷を捨て、新しく四つ氷を入れる。コーラに、緑茶、紅茶に、フルーツジュース、しかし選ぶのは決まってアイスコーヒー。ガムシロは三つ。
 ストローでかき混ぜながら、禁煙ブースへ戻る。パソコンの画面が暗転していた。タッチパッドを擦って画面を復活させ、作業を再開する。
 コーヒーを一口啜る。甘い。
 脳に糖分が回ってきた。そんな気がする。今なら、書けそうな気がする。
 テキストファイルを立ち上げる。

『設定』
・場所は大学。
・法廷推理の亜種。法学部の学生による判例報告。
・判例集に載るくらい有名なのをベースに、事例を作る。

 ここまで打ち込んで考える。
(もしかして、名誉毀損とかに当たるか?)
 不安になってネットを立ち上げる。名誉毀損で検索すると、『石に泳ぐ魚事件』というのが出てきた。
(元ネタ有りは、ちょっと厳しいってことかな?)
 キーボードのAキーを押しっぱなしにしながら、思い出す為に瞑想する。画面には、『あああああ……』と、無駄な文字がページを埋めていく。
 しばらくして、法廷推理物みたいな事件にする必要はないと判断する。無駄な文字の羅列をまとめて消す。
「ネタ的には、面白いと思うんだけどな。後は、どう詰めるか」
 一人称で始まり、終始一人芝居よろしく、主人公しか出てこない。短編は、登場人物が少なければ少ない方がいいという法則があるとか。登場人物が多くなり過ぎると風呂敷を上手く畳めないからだろう。
 これ以上良い考えを思いつかず、場所を移す。伝票を持って、レジへと向う。
作品名:マトリョシカ 作家名:浅日一