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騎士は語る

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私を知らない方々も若干名居るようなので、改めて自己紹介を。
私の名はアーネスト・ジェンドリン。国王陛下より上級騎士の叙任を賜った者だ。
本題に入る前に、私が居た国の話をしたいと思う。本題だけ聞いても、おそらく分かってもらえないだろうからな。
さて、「上級騎士」、と聞けば、では中級や下級もあるのかと考えた方々も居ると思う。その通りだ。中級騎士は上級騎士よりも数多く、下級騎士はそんな中級騎士よりも遥かに多く存在する。
言葉の印象から、これらに序列があるように覚えた人も居るだろう。確かに、下級より中級、中級より上級の騎士の方が認められている行為は多い。責任も同様に重くなっていくがね。
たとえば、犯罪者を裁判に掛けずその場で処罰する事が許されているのは上級騎士のみだ。処罰の中には「死刑」も含まれる。つまり上級騎士はその場の判断で、犯罪者を処刑する事が認められている、というわけだ。
とはいえ、実際に犯罪者を処刑した上級騎士など、私が知る限り一人も居ないな。
なぜなら、万が一被疑者が冤罪だった場合、上級騎士は例外なく死罪に処せられるし、仮に有罪の確証があったとしても、実際にその場で処刑したら、王宮に呼び出されて、元老院や裁判所で何日もかけて聴取を受けなければならないし、さらに山のように報告書も書かなければならないからね。そんな手間を考えれば、生け捕りにして担当の下級騎士達に引き渡した方がよっぽど良い。上級騎士になるほどの実力者が、そこらの犯罪者を生け捕りにするなど、たやすいものだ。
もっと大きな理由として、そもそも上級騎士は滅多に市街を出歩かない、という事情もある。それは何故か。それは各序列の騎士の役割にある。
下級騎士は騎士の中では最も多い序列だ。その大半が、大きな都市では市街を巡回したり、小さな集落では常駐したりしてそれぞれ持ち場の治安を守っている。中級騎士は、そんな下級騎士を統括するのが任務だ。よって市民が普段目にする「騎士」といえば、それは専ら下級騎士と中級騎士を意味する。
では上級騎士は?
さっき、私は「上級騎士は滅多に市街を出歩かない」と言った。では普段はどこにいるのか。
市街の外だ。
王国には大小合わせて二十から三十ほどの都市や集落がある。当然だが、それらを繋ぐ街道も王国全土に張り巡らされている。近年整備されてきたとはいえ、街を一歩出ればそこは無法地帯も同然。何が出てくるかは分からない。
盗賊や、逃亡した犯罪者等はまだマシな方だ。彼らは金や食料を差し出せば命までは奪わない。みだりに通行者を殺したら、誰もその道を通らなくなってしまい、結局は自分達が困るわけだからね。
それよりも厄介なのは、いわゆる妖精や怪物といった類だ。彼らに人間の理屈は通用しない。いつの間にかふらりと現れて、その場一帯を自分のテリトリーだと考え、そこに近づく者を無差別に襲う。山犬や狼のような獣とは違って、熊のような怪力を持っていたり、簡易ながらも魔法を使ったりしてくる。
あと、これはかなり希有な事例だが、魔法の力に魅入られて正気を失った魔法使いが、街道で人を襲った事も過去にあった。まあ何であれ、そんなのに狙われたら一般市民はひとたまりもないという事だ。
そこで、上級騎士が出てくる。
彼らの主な任務は、街道を巡回し、そこを行き交う人々を守る事だ。だから、集団で現れる場合が多い盗賊や、さっき言った怪物、妖精、魔法使いの類を一人で追い払えるだけの力量が求められる。必要とあらば、盗賊のアジトや怪物の巣窟を壊滅させたりもしている。
この場の方々の中には、私だけが特別強いと思っている人もいるようだが、それは間違いだ。上級騎士は皆強い。いや、強くなければ上級騎士にはなれないのだ。
……話を元に戻そう。要するに上級騎士は街の外で人々を守るのが使命だ。それが成されなければ、岩だらけの鉱山に住み着く鉱夫達は飢え、鉄や銅は掘り起こされなくなってしまうだろうし、逆に平地に住む農民は、便利な鉄製の農具を手に入れる事が出来なくなってしまい、収穫は落ち込んでしまうだろう。他にも、流行病の発生を伝える者がいなくなれば、薬を届ける者もおらず、大勢の死人が出る事にもなる。
上級騎士の任務が如何に重いものであるかは、これで概ね理解していただけた事と思う。それを踏まえた上で、これから私が話す事を聞いて頂きたい。これは私と、複数の騎士達が実際に体験した事だ。
作品名:騎士は語る 作家名:橘健兵衛