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一生懸命頑張る君に 1

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Episode.4 半年の壁 part1



少年は、グラウンドに立ちつくしていた。
(マジかよ・・・・)

三時間前―――・・・
「今日は来てくれるでしょ?陸上部の部室で待ってるから!」
鈴木紫乃は、少年―――田中琥瑦に向かってそう言った。
(毎日毎日、よく飽きないよな)
そう思っていると、陸部の谷口裕也が琥瑦に話しかけてきた。
「あの子、ようやりおるよな」
琥瑦は、顔をそらすと、
「・・・迷惑だよ、あんなの」
裕也は、どんな顔で言ってんだか、と笑っていた。

放課後―――
あの日、確かに琥瑦の中に、陸上をやりたいという気持ちが生まれていたのだが、なかなか次の一歩を踏み出せずにいた。
走ろうとすると、一番苦しかったことが思い出されて、足がすくんでしまう。
走れない自分を直視できるだけの勇気を、琥瑦は持ち合わせていなかった。
(だいたい、武隆だって最近学校来てないし)
どういう訳だか、武隆は学校にいなかった。
今さら琥瑦は武隆にどんな顔をして会いに行けばいいかわからなかった。
(・・・よし。くよくよ悩んでいても仕方ない)
ちゃっかり手にシューズを持って、琥瑦は立ちあがった。

そして、現在。
(なんだよ、これ・・・)
まず第一に、伯零中陸上部には陸部用のグラウンドがない。
彼らは、学校の廊下を走ったり、外周したりして練習しているらしい。
第二に、部員が5人という、まさに極小チームということだ。
しかも、今は武隆もいない。4人で活動(というほどしているとも分からないが)しているのだ。
4人とは、裕也、三年の先輩の斎藤浩介、二年の先輩の戸田治毅、マネージャーであるが紫乃のことを指す。
琥瑦が部室棟にある陸部の部室に行って、入るのに躊躇していると、歩いてきた紫乃が琥瑦に気づいたのか、話しかけてきた。
「来てくれたんだね。さあ入って入って!」
入りにくかったことがばれていたようで、琥瑦は恥ずかしくなり、顔を背けて、・・・別にと言った。
中に入ると、戸田治毅が嬉しそうな顔をして寄ってきた。
「君が田中君!?わあ、初めまして~」
戸田治毅は、二年で、中距離をしている。
決して男らしい・・・とは言えない童顔の持ち主で、周りからハルちゃんと呼ばれていた。
「こちら、ハルちゃん先輩だよ。・・・そういえば、田中君さ、武隆君どうしてるか知らない?」
突然紫乃がそんなことを聞いてきたので、琥瑦は一瞬焦った。
なぜなら、さっきまで考えていたことだったからだ。
しかし、武隆が学校を休むことはそうそう珍しいことでもなかったのを、琥瑦は思いだした。
「武隆は・・・まああいつは病弱なとこもあったし、大丈夫だと思うけど」
「ならいいんだけどねぇ」
治毅がいるってことに今さら気付いた琥瑦であった。


その頃―――
「なんで・・・・・っ!」
一人の少年が、何をしているかなんて、琥瑦は分かる訳もなく。
ただただ時が過ぎていくばかりであった。

作品名:一生懸命頑張る君に 1 作家名:雛鳥