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Loveself プロローグ~女神編~

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人間を愛し、慈悲を掛け―――人間に崇められ慕われるべき存在よ。
……どうして女神なのかって?説明しないと分からないの?
そんなの、私が完璧だからに決まっているじゃない。
欠点など1つたりともなく、この恵まれた美貌。これで私を女神だと思わない理由が分からないわ。疑いようもない事実じゃない。
もちろん誰から言われたわけでもないけど―――でも、私がそう確信するのも当然のことでしょう。むしろ、人間たちは私をもっと崇めるべきよね。
人間たちは美しい私に見惚れるばかりで、信仰しようという人間は全然いないのだもの。やはり無神教の国は駄目ね、現代の神がそばにいることにすら気が付いていないのだから。



そして、この騒がしい男は、馬鹿。
本名は水口在野だけれど、私が名前を呼ぶ価値もないので普段は馬鹿と呼んでいる。ああ、もちろん他の人間がいる前ではちゃんと呼んであげているけどね。
そしてこいつは―――人間の底辺だ。
馬鹿。とにかく馬鹿。わざわざ言葉で着飾る必要もないくらいの馬鹿。五月蠅いという言葉のごとく五月の蠅のように鬱陶しい存在だ。
私を『愛して』いて―――ゴキブリのようにしぶとく付き纏ってくる迷惑な男。何度殴ったり蹴ったりして『指導』してやっても一切懲りる気配がない―――どころか、むしろ喜んでいるような態度すら見せる。
正直気持ち悪いを通り越して、苛立たしいわ。
それでも、私は見捨ててやらないけどね。

「で、結局何なの?」
ほら、こうしてちゃんとこいつの話を聞いてあげているでしょう?
普通だったら無視するというのに、私はなんて心優しいのかしら。
そう、その結論がものすごくくだらないことじゃないかと―――うすうす見当はついていても。
このままスルーしていれば、この馬鹿は話題を忘れていたんじゃないだろうか、と思いつつも。
馬鹿は私の言葉に案の定、「今思い出した」と言わんばかりにぽんと手を打ち―――よく回る舌で再び喋り出した。
「そうそう!実はさ、うちの校長カツラだったんだよ!」

……やはり、ものすごくくだらなかった。
ええ、分かっていたわ。分かっていたわよ。だって馬鹿だもの。
馬鹿だからきっとまともなことじゃないに違いないとは思っていたけれど―――でもそれでも、さすがに呆れざるを得ない。
……何故かしら、無性にイライラしてきた。
何でこんなくだらないことを楽しそうに話せるの?理解できない。

「俺が駈と倉庫の掃除してたら校長が強風にあおられてカツラを押さえてるのを見たんだよ!前から噂はあったけど本当だったとは思わなかった!やばいwwwwみwなwぎってwwきたwwww
もし俺が校長室の花瓶とか割ってしまったとしてもこれで弱みを握れるな!」
そんなマンガみたいな展開は滅多に起こらないだろうに。
そんな馬鹿げたことを平然と考えられる時点でこいつがいかにマンガ脳なのかが分かるというものだろう。知性の欠片も感じられない。
ほとほと呆れかえってしまうわ。

そう、本来なら私が―――私のような女神が、こんな騒がしい蠅と行動を共にしてやる理由などありはしない。
本来なら、女神たる私とは会話すら許されないだろう。
こいつに好意も、興味も、同情もありはしないのだから。
今すぐ見捨てて行ってもいいくらいだ。
それなのに私がそうしないのは。


こいつが、あまりにも馬鹿だからだ。


性格は見ての通りの馬鹿、脳が回転するより口が回るほうが早い究極の喋り好き。しかもその99%がくだらない妄想や戯言で、いつも勉強もせずに遊んで喋ってばかり。正直言ってうっとうしいことこの上ない。私以下の人間の中でも更に駄目人間だ。私の慈悲がなければどんな問題を起こして誰に迷惑をかけるかしれたものではない。
しかし『だからこそ』、私はこいつと一緒にいて『あげて』やって、馬鹿な話に付き合い、―――こいつが『私のことを好きだということを』仕方なく受け止めてやっている。
こいつは救いようもない馬鹿だ、私がいなければ皆に見放されてしまうかもしれない。
いくらこいつがどうしようもない馬鹿でも―――それを理由に見捨てるなんて、女神の『慈悲』が許さない。

むしろ馬鹿だからこそ、この女神たる私がこいつを見て教育し、指導し、少しでもまともな人間になれるように、そして他人に迷惑をかけないようにしてやるべきではないか、という使命感にかられたのだ。
神というのは常に人間を導くもの、と決まっているものだから。
たとえ一向に改善の余地が見られなかったとしても、慈悲深い私はこいつのことを見放したりしない。さすが、私って女神よね。
もちろん、正直こいつに嫌気がさすことはある。というより毎日だ。しかしそれでも私はこいつの隣にいてあげている。私の優しさに眩暈がするわ。


だから、そう、これは『こいつのため』であって。
こいつが馬鹿なことをしないように、私が保護者として見てやっているだけで。
私自身がこの馬鹿と一緒にいたいからだとか、そんなことは絶対に―――ありえないのだ。
人間、しかも愚かな人間と女神が釣り合うはずないでしょう?


「……そんな展開は簡単に起こらないと思うけどね」
こんな馬鹿にわざわざ正論を口にしてあげる。
どうせ馬鹿だから伝わらないとは思うけど、女神だしね。
「そんなことないと思うぜ?結構世の中ってキセキとか溢れてるし!漫画みたいなことが起こってもおかしくない!俺に言わせるなら、そもそも俺がこうやって留衣と一緒に話せるのも奇跡みたいに嬉しいことだしさ」
バカみたいなへらへら顔で―――馬鹿が笑う。
間抜け面だ、以外の感想など浮かばない。―――はずなのに。

『俺、都山さんのこと、好きなんだ』
どうしてだろう。
どうして馬鹿の言葉を聞いて―――あの日のことを思い出したんだろう。
『都山さんは美人だし、エロいし、……じゃなかった、頭もいいし、簡単に言うと俺の好みクリーンヒットっていうか、えっと、そう、そうなんだよ!』
馬鹿が、私に『告白』してきた、日。
このおこがましい下僕が―――女神たる私への許されざる恋心を吐露してきた、日。
私がこの馬鹿を、『教育』しようと決めた―――日のことを。
『つまり何が言いたいかって言うと俺が都山さんにメロメロ、じゃない違う、全てが好きだってことなんだけどさ、』
語彙力もなく、どもってまともに発音もできないくせに、舌だけは良く回るこいつが、私に言ったことを。
『でも、一番好きなのは―――』

―――都山さんの、―――

その時、―――チャイムが鳴り響いた。
馬鹿はそれに目ざとく反応し、うわあもう授業かよ、とぼやく。こいつは頭が悪いから勉強が苦痛なのだろう。全くこれだから馬鹿は。私にかかればできないものなどないので、愚民の考えはさっぱり理解できない。
―――私も気持ちを切り替えよう。……今思い出した『忌まわしい過去』のことは、忘れる。神の頭脳を持つが故に完全なる忘却が出来ないのは悩ましいところだが―――意識に上らないようにすることはできる。
あんな屈辱的なこと―――思いだすだけで怒りで顔が熱くなる。
頬まで赤くなってしまって、―――人間の『照れ』みたいで、嫌なのよ。
私が馬鹿に、そんな感情を抱くはずもないのにね。