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無題Ⅰ~異形と地下遺跡の街~

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Episode.6 過去と真実



そこは、言うならば研究所だった。いや、実際に研究所なのだろう。
入ってすぐに、鬨はその室内の明るさに目を眩ませた。廊下と室内の明るさが極度に違ったためだ。部屋は思った以上に広く、吹き抜けのような作りになっていて天井がすごく高い位置にある。それもそのはずで、この部屋は2階構造になっており、テラスのように一階部分から2階部分が見れる。おそらくあそこから二階へ上るのだろう。その横には螺旋階段があった。どうやら2階部分は本棚の様だが、此処からではその本棚がいくつ並んでいるのかは分からなかった。一階の中央にはガラスでできた大きな楕円型のテーブルと、それに合わせて作られたのであろうデザインの少し丸おびた白い椅子が5,6個、そのテーブルを囲んで置いてあった。部屋の壁も白く、何処かすっきりとした清潔的印象を与えるが、ここまで白いともはや病的にさえ映る。まるで病院だな、と鬨が周りを見回しているのをヴェクサは肩越しに一瞥し、声をかけることなくあの白い椅子の一つへ腰かけた。鬨は何も言わずに入口で入って来たその位置に立ったままでいた。

「こっちに座れよ。どこでもいいから」
「いや、俺はここでいい。話を聞かせてくれ」

その言葉を聞いてヴェクサは、「すっかり警戒されちまったな」と小さくつぶやいたが、
鬨にその呟きが聞こえたかどうかは謎である。ヴェクサはおもむろに煙草を取り出して口にくわえた。が、火は付けずそのまま口にくわえただけで、思い直したように煙草を元の箱に戻した。

「吸わないのか」
「吸わないやつの前では吸わないって決めてるからな」
「酒屋では吸ってたじゃねーか」
「あそこで我慢しても意味無いだろ」
「まぁ・・・それもそうか・・・」

確かにその通りだ。あんな煙草の煙と酒の匂いが充満したところで一人が我慢したからと言って特に意味は無い。
特に何の感情もなく、どうでもいいというように返事をした鬨の表情はいつも通りの無表情だった。対するヴェクサの眉間には盛大に皺が寄せられていたが、そこは鬨の気にするところではない

「で、話ってのは?」
「あぁ、それなンだがな…お前、あの“黒いやつ“に遭ったて言ってたろ」
「あぁ……」

思わずあの光景を思い出して少し手が震え、吐き気が蘇り、眩暈がしたが、手のひらを握って歯を食いしばり、やり過ごした。それに気付かなかったのか、その振りをしているのかは分からないが、ヴェクサは淡々と、気にする風もなく話を進めていく。
「あれの正体を、教えてやる」
「・・・・正体?」

その言葉に、いささか疑問…というか違和感を覚えた。「正体」・・・正しい姿、本当の、「姿」。
そんなものが、「あれ」にあるのだろうか。しかし、よく考えてみればあれも何かの「生物」であり、動いていたからには命があるのだろう。違和感は拭いきれないが、そう思うことにした。
しかし、

「あれの正体は、「人間」だ」

その言葉に、反応ができなかった。

「・・・・・は?」
「いや、正しくは「人間の成り損ない」、か?」
「ちょっと待てよ・・・どういう意味だ」

鬨の声は少し震えていた。信じられないとでも言うように、目を見開いている。

「意味なんて知るかよ。ただあれが人間の成り損ないだってことぐらいしか分からね―ンだ。俺だって最初は信じられなかったンだぜ?」
「じゃあなんで・・・・」
「・・・ついてきな。隣の部屋だ」

先ほど座ったばかりだというのに、ヴェクサは立ち上がると隣の部屋と繋がっているのであろう扉に向かっていく。それに遅れながら鬨がついていく。

「・・・此処を他人に見せたのはお前が初めてだ」
「そりゃ、光栄だね」

ヴェクサがスライド式の扉の前に立つと自動的にそれは開いた。隣の部屋は先ほどまでの部屋と違い真っ暗だった。あいた扉からこちらの部屋の明かりが入っていたが、それは一瞬のことで、すぐに扉は閉まってしまい、部屋の中はまた真っ暗になった。
しかし、真っ暗になっても部屋の中が見えない、ということはなかった。

「なんだよ、これ」

その部屋には、おぞましいほどの数の大きな標本瓶が置かれていた。その標本瓶は中から発光しており、それが明かりとなって部屋を照らしていたのだ。その瓶の底の部分からはいくつもの大小さまざまな管やコードが走っていた。
それだけなら、なんら問題はない。ここは見たところ何かの研究所だったようだから、こういうものがあってもおかしくはないかもしれない。
問題は、その巨大な、「大人の大柄な人間が一人入っても大丈夫」な位巨大な標本瓶の、
「中身」だ。

「信じる気になったか?」

そう聞いてきたヴェクサに鬨は言葉が返せなかった。

その瓶の中身は、「人間」、だった。