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かぐたんのぷちぷち☆ふぁんたじぃ劇場Q2

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先生のてつがくかふぇ☆は夜はいざかや・クダ巻きver.



カウンター席で先生は既に出来上がっていた。
「マスター、おかわりっ!」
ひっくとしゃくり上げながら空っぽの湯呑みを掲げて要求する、
「先生、飲みすぎですよ、」
天パの雇われマスターは眉を寄せ、先生の手から湯呑を取り上げようとした。さっきからこれでもう何杯めか、いくら中身がただの白湯でも限度がある、――先生、水っ腹でタプタプの先生なんて俺は見たくはないんですっ! 心の中でマスターは熱弁をふるった。
「仕方ないじゃないですかぁ、飲まなきゃやってらんない気分なんれすっ」
――ダシッ! カウンターに湯呑を叩きつけて、回らぬ呂律に先生が言った。かと思うと、湯呑の空洞を覗き込む仕草でやおらくすくす笑い出す。
(……。)
――やれやれ、マスターは肩に息をついた。
両手に湯呑を抱えるようにカウンターに伏せていた先生が、不意に顔を上げた。
「……だってね、こんな大事になると思ってなかったんですよぉ、」
言いながら先生が急に椅子から立ち上がってどアップに迫ってきたのでマスターはうひゃっとなった。――べべべbつにこっコレは突発おまじないターーーイムっ☆突入かっ?!とかうっかり期待したわけじゃないんだからねッ! ……てなカンジにマスターを勝手にドギマギさせるだけさせといて、先生は再びストンと座席に腰を下ろした。マスターはほっとしながら同時に歯噛みした。指先にぐらぐら湯呑をつつきながら先生は続けた。
「……そりゃあマ夕゛オさんは素敵なおじさまだし、私より全然ぴちぴちの若い男の子にとられちゃうのはくやしいなぁなんて、内心ちょっぴり思わないでもなかったですけどっ」
「……。」
――先生、正直っつーか何つーか全力でぶっちゃけすぎです、マスターは心の中で泣きそうになりながらグラスを磨く手に割らない程度力を込めた。
「――でもねぇ、」
先生はカウンターにずずいと身を乗り出してマスターを見上げた。揺らがぬ視線を受けてマスターの手が止まった。
「……」
先生はすっと手を伸ばすとマスターの頬下の皮膚をギュウと摘んだ。
「――ヘンな顔、」
先生が噴き出した。ぐいぐい引っ張っられた上に半回転ひねりで捩じられて、――いったい俺にどうしろと、なされるままにマスターは突っ立っていた。
先生の手が唐突に離れた。マスターはひりひり痛む頬の赤みを押さえた。ホレた弱みだからさぁ、――何してくれちゃってんですか、恨み言の一つも出てこない。強いて聞くなら先生何ぷれいっつんですかコレは、ってそれもあんまりアホすぎるのでわざわざ口を開く気になれない。
長い髪を垂らしてカンターに頬杖ついていた先生が、横を向いたままぽつりと言った。
「君のどこが好きなんでしょうねぇ……」
「はっ?」
今度はマスターも思わず声に出た。振り向いた先生がマスターの顔をまじまじ見つめた。
「……、」
――ヤベぇ、俺いま赤面してんぞ、マスターは頭の中がうわぁとなった。先生がふぅと短い息をついた。
「顔でもないし、だいいち君は私好みのシブいおじさんエイジじゃないし」
「……。」
そっ、そんなにはっきりタイプじゃないって断言しなくてもいいでしょうよォォいきなり何の必然性もなくぅぅぅ、マスターはまたまた泣きたい気持ち満載になった。
「てゆーか俺はっ」
――ゴホン、マスターは心を奮い立たせてひとつ咳払いすると、磨き終わったコップを置いて新しい皿を手に取った。
「……おっ、俺は好きですよ先生の顔、」
――そもそもが出会った瞬間一目惚れみたいなモンですしねっ! ほとんどヤケになりながらマスターはハハハとはっちゃけた。
「またまたー、」
キョトンとしていた先生が笑いながら打ち消すように手を振った。
「私のカオが好きだって、現物見たことないじゃないですかー、」
「……」
それを言っちゃあ、マスターは暗澹たる心情に叩き落された。荊棘臆さず我が道を行く、そりゃ敢えての(敢えて?)KYは先生を先生たらしめている最大の持ち味であるにしても、そこ突っつくと全てが根底から成り立たなくなるではないか。
「まー私の顔のことはこの際どーだっていいんですっ」
先生が拳を固めて力説した。
(……。)
マスターはぐったりした。――どーでもいー、どーでもいーんスか、俺が決死の思いでこくはくしたのに、それをこーもアッサリばっさりと、……けど俺は、俺はね先生、センセイのそーゆーエスいところも含めて大分ラヴいんですっ! ……ってアレ? もしかして俺酔ってる? 白湯でエア酔いしてる先生見てたらもらい酔いしちゃったか?
「――……、」
カウンターの中で眉間を押さえてぐらぐらしているマスターをよそに、いくらか頭がすっきりしてきたらしい先生はブツブツ難しい顔をしてチラシの裏のメモ帳に何やら込み入った図式を書き付けていた。
「……分岐点がココだから、こう迂回してこのルートに戻って……、いやでもこっちの世界の彼は現時点でイベント毎にイタ袋抱えて何ら問題なくヒャッハー☆してるわけだし……」
先生はふと手を止めると筆軸で頭を掻いた。ウンと小さく頷いて筆を置くと、長い髪を後ろできゅっと一つにまとめる。
「マスター、夜食お願いします、」
猛烈な勢いで計算式を書き連ねながら顔を上げずに先生が言った。
「……ハイっ、」
ぐにゃぐにゃ覚束ない足取りのマスターが声を裏返らせて返事した。
――せんせーっ! ……ぼかぁー、ボカァね、そーやってセンセイがオデにはでんでんわかんないムズカシーコトをしんけんに考えてるときのマジメにリリしいせんせもスキなんれすっ! ウソじゃないっす!! ゾッコン本気と書いてマジっす!! 何もカオばっかりのメインクーンじゃないんれすよォォォ!!! 
雰囲気でグダグダに酔っぱらったマスターは夜食のいもフライ入り焼きそばにラーメンスープを思きしぶっかけて先生に出した。
確かどこかにそんな様式のB級グルメがあったような気もするが、両者は全くの無関係である。