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かぐたんのぷちぷち☆ふぁんたじぃ劇場Q2

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マ夕゛オさんと僕〜promised land〜



あれは何の帰り道だっただろう、それともわざわざ遠出したのか。
僕とマ夕゛オさんは浜辺の堤防脇を歩いていた。
――ザザーン、ザザーン、打ち寄せる波の音は聞こえるが、コンクリの壁に遮られて海はよく見えない。
「……、」
僕は小走りに駆け出した。
「どこ行くんだい、」
背中からマ夕゛オさんの声が呼びかける。僕はそのまま助走をつけてジャンプして、えいやと堤防によじ登った。
――ふんぬーーーーっっっ!!!
かろうじてコンクリの上辺に取り付いた上腕二頭筋の非力な馬力を振り絞り、壁を蹴ってジタバタしている下半身をどうにかこうにか引き上げる。
「!」
――やった! ミッションコンプリート!! 額に浮かんだ汗を拭い、堤防に立って眺める海は絶景だ。凪いだ沖合に落ちていく完熟柿の夕陽を受けてうろこ状にキラキラ光る水面がいちめん視界を埋め尽くす。
「……やぁ、見事なもんだな、」
足元からマ夕゛オさんの声が聞こえた。僕は海面から視線を移した。
堤防にのんびり肘を着いて、マ夕゛オさんは僕と同じ景色を見ていた。
――んん?
堤防の上でバランスを取りながら僕はめいっぱい道側に背を逸らした。……なぁんだ、ナゾが解けた、マ夕゛オさんは積み上げた石に乗っかってかさ増ししていたんだ。
若さに任せて突っ走る僕と、それが経験積んだオトナの差ってヤツか、なんて、僕はいちいちつまらないことに感心していた。
「マ夕゛オさん、」
僕はマ夕゛オさんに手を差し出した。
「?」
マ夕゛オさんのグラサンが僕を見上げた。
「こっちの方がよく見えますよ」
僕は笑いかけた。マ夕゛オさんがふっと髭面を緩めた。よいしょと腕を引っ張り上げて、二人並んで堤防の上に立つ。
「海の、バカヤローーーーっっっ!!!」
顔の前に両手を添えて、腹の底から僕は叫んだ。そうせずにはいられない、無性にこそばゆい気分だった。
「こくれんかいようほうじょうやくふんさーーーーいっっっ!!!」
僕の真似してマ夕゛オさんも大声を張った。
「何ですかそれ?」
僕はマ夕゛オさんに訊ねた。
「んっ?」
マ夕゛オさんが僕を見た。それから、首をひねって後頭部をがしがし掻いた。
「……いやぁ、おじさんってのはさァ、ときどきそういうわけのわからないことを口走る生き物なんだよ、」
「ヘンな言い訳ですね、」
僕は思わず噴き出してしまった。マ夕゛オさんはよくそうやって何でもかんでも「おじさんだから」で処理しようとする向きがあるけど、別におじさんじゃなくたって、人間誰しも唐突に脈略のないことを言ったりしたりするもんだ。
「手ェ繋ぎましょっか?」
「えっ」
リアクションの次を待たず、僕は半ば強引にマ夕゛オさんの手を取った。僕より大きいマ夕゛オさんの手は少しカサカサしていて、だけど思ったほどはゴツゴツしてなくて、むしろなんだかふわふわしてて、けれどそれはおそらく多分に僕の心情的なものだろうか。
「……」
俯いているマ夕゛オさんの手を引いて、狭い堤防の上を二人並んで横一列にそろそろとカニさん歩きで進んでいく。
「なっ、なんだか孫とリハビリ散歩しているみたいだなっ」
不意に顔を上げたマ夕゛オさんがハハハと照れ臭そうに笑った。
「そんなトシじゃないでしょう、」
僕はマ夕゛オさんの手をぎゅっとした。最後に父上と手を繋いだときはどんなだったっけ、記憶を手繰ろうとしたがうまく思い出せなかった。やっぱり、マ夕゛オさんは父上とは違うんだ、――違うってどんな風に? 考えようとすると頭の底がぐらっとなる。
「なぁに、この年になりゃおじいちゃんなんてあっという間さ、」
急に猫背の胸を張り、なぜか誇らしげな様子にマ夕゛オさんは言った。
――そんなにすぐにおじいちゃんになられちゃ困ります、そう言いながらも僕は白髭のおじいちゃんになったマ夕゛オさんを想像して、ついでにその隣でくたびれたおっさんになった自分も想像して、妙におかしくてたまらなかった。