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シュガーのち甘党予報

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俺は、甘いものが好きだ。
俗に言う甘党だといわれる事も少なくは無い。
苺には練乳をたっぷりかけて食べるし、練乳をかけない苺は何だか味気ない。
紅茶にはミルクとクリープをたっぷり投入。原色が無くなったら飲み頃だ。
とにかく俺は甘いものが大好きだった。
かといって苦いものや辛いものが苦手かといわれればそうではない。
ただ、その中でも一番甘いものが好きだというそれだけ。





シュガーのち甘党予報 (彼女が愛したスティックシュガー七本分)





男で甘党って珍しいよね。彼女は言う。
その言葉に少しむっとして、俺は彼女にこう言い返す。
女で甘いものが苦手って珍しいよね。
彼女は同じようにむっとした様子で、そういうさ、と続けた。
「そういうさ、固定概念みたいなものに縛られる男ってキライ。別れよう」
「俺達気が合うね。丁度俺もそう言おうと思ってたところ。いいよ、別れよう。今から俺達は他人だ」
そして俺達は恋人という利害関係から他人というまあ、何とも無情な関係に戻ってしまったわけだ。おしまい。

「……ちょっと、冗談ですよね?それで終わり?じゃあ私は先輩のそんな話を聞かされる為に呼び出されたんですか?」
「うん、まあ、そんな感じ」

怒らないでよと俺が過去の話を語って見せたのは高校時代の部活動の後輩。
彼女とは昔、本当に少しだけ、恋人だった時期がある。つまり元カノだ。

「そういう話って元カノに聞かせる話じゃないと思うんですけど。ていうか先輩、そこのスティックシュガーとってください」
「何本?」
「二本くらいお願いします」
「了解」
俺はアンティーク調の箱の中からスティックシュガーを四本取り出し、二本を彼女に手渡し、二本を自分の紅茶に投入した。
「先輩何本目ですか。紅茶、おかわりしてませんよね」
「うん。ええと、七本目かな。ちなみにオススメは原色が無くなって底に砂糖が溜まるくらい」
「それは気持ち悪いですね。是非とも遠慮しておきます」
「そう?舌にシュガーが乗るくらいがいいと思うんだけどね」
「先輩って本当に甘党ですよね」
「甘党の男は嫌かな?」
「いいえ、別に。正直どうでもいいです」
「そう」

小さい頃に読んだ本によると、女の子はなんだか素敵なもので出来ているらしい。
幼心に女の子はなんてすばらしいんだろうと思ったものだ。
理性的に考えてみれば砂糖やスパイスで構成された人間なんて居る筈がないが。

「女の子はなんだか素敵なもので出来ているらしいよ」
「…突然なんですか」
「魅力的だよね」
「…変態発言ですか、そうですか」
「違うよ。ただ女の子は、砂糖やスパイスなんて魅力的なもので出来ているのに、男の子はそうじゃないらしいんだ」
「…マザーグース」
「そうそう、それ。男の子は…なんだったかな。カエルだっけ?まあ、そんな感じのもので出来てるらしい」
「…」
「でも理性的に考えてみると、人間の体って内臓とか、元素とか、色んなものがあって構成されているわけじゃない?」
「そりゃあ、砂糖やスパイス、カエルなんかで構成された人間は居ないでしょう。居たらそれは多分人間じゃありません」
「そうだよね。でも幼心に俺は、女の子って凄いんだって思ってたんだよ」
「先輩が甘党だからですか?」
「まあそれもある。俺は高校生の時、初恋を経験して思ったね。女の子はなんて素敵な存在なんだろうって」
「多分それ、フィルターみたいなのかかってると思います。初恋フィルター」
「それでね」
「先輩人の話聞く気ありますか?」
「そこで一つ提案なんだけれど」
「やっぱり話聞くつもりないですね先輩…で、何ですか?」
「俺とより戻さない?」

甘いものが好きだ。
だから、女の子も好き。
だけど一番好きなのは、やっぱり。

「話が見えないんですけど。大体、それは彼女に振られたからですか」
「違うよ。この数年、何人もの女の子と付き合ってきて思ったんだ。どの女の子も素敵だし、可愛いし、綺麗だけど、何だか違うって。ああ、やっぱり俺が一番好きなのは、可愛いと思うのは、綺麗だと思うのは、キミだけなんだって」

一緒にイルミネーションを見たあの日のキミのはにかんだ笑顔が忘れられない。
大好きだよって言った日のキミの照れた顔が忘れられない。
別れようって言った日の、キミの、泣きそうな顔が、今にも崩れてしまいそうに震える足が、忘れられない。
どうしてあの日、嘘だよって言えなかったんだろう。
女の子が好きだから付き合ってたわけじゃない。
俺は、キミが好きだから、付き合ってたんだ。
俺にとって、キミが、初恋だったんだよ。

「漸く気がついたんだよ」
「………」
「所でキミ、今彼氏は?」
「…居ませんよ。先輩と別れてからずーっと」

あの日と同じ泣きそうな顔で、彼女は俺を見つめる。
ただ一つ違うのは、

「だってこの場所は、貴方だけの場所ですから」

緊張で汗ばんだ彼女の手に握られた俺の手が持っていかれたのが、


(彼女の左手の、薬指だったということ)
作品名:シュガーのち甘党予報 作家名:紫水