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みにくい姫君のお話

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 「王国で一番の騎士エオスに呪いあれ!」
 こうしていつからか北の丘陵に住むようになった魔女は騎士エオスに呪いをかけたのですが、それは彼のやすらかな眠りをさまたげるものでした。騎士エオスは眠りにつこうと寝台に入るごと、あるいはいくさに向かった先の荒れ野でつかれはてて目を閉じるごと、昼となく夜となく悪夢にさいなまれました。
 ところでこの王国の剣、ほまれ高き青年には、愛する女性がおりました。やさしいとび色の瞳と、滝のようにさらさらと流れ落ち、どんな貴婦人もため息をついてうらやむ亜麻色の髪の姫君で、お名前をユピテル姫と言いました。
 ユピテル姫は騎士エオスにも負けないほど勇敢で、その上北の丘陵の魔女にも負けないほどに賢いお方でしたが、その不器量なことといえば国中の人びとが知っていることでした。吟遊詩人はユピテル姫のおもながな、あとほんの少しだけばら色がさしていれば「雪のよう」と褒め称えられたはずの青白い顔や、空の高いところを飛んでゆく鷲の曲がったくちばしにも似た長い鼻がそこにぬっと乗っているようすや、その鼻の先がほお紅をうっかりつけてしまったかのように赤いこと、それからちょっとかわいそうなくらいに痩せて骨の浮き出た肩などのみにくいことをうたいました。ユピテル姫の父上、偉大な王様は、お后様が姫をみごもられた時に善き魔女たちから贈られたプディングをいっぺんに全部食べてしまったことがいけなかったのだとお考えでしたし、おやさしいお后様は、妖精たちに送った姫の誕生パーティの招待状が、妖精の人数よりも一通足りなかったからだとお考えでしたが、ともかく騎士エオスはユピテル姫を深く深く愛していたのです。
 さて、このユピテル姫もまたたいそう深く騎士エオスを愛しておられましたから、父王様や母后様が泣いてお止めしても無駄なこと、「呪いを解く方法を、西の街道に住む虎に聞いてまいります」と言ったきり、ある日お出かけになってしまいました。西の街道の虎は白いうつくしい毛皮を持つ、とても賢い虎だったのです。
 ところがおどろいたのは騎士エオスです。西の街道の虎はとても賢かったのですが、若い娘の心臓を食べるのがとてもとても好きでした。愛する人が心臓をうばわれて冷たく地面に横たわる姿は想像するにはあんまりひどく、騎士エオスはユピテル姫を追いかけて西へと向かいました。騎士エオスはお供をひとりだけ連れてゆきましたが、それは昔からずっとこの騎士におつかえしている、忠義な従者のヨハネスでした。
作品名:みにくい姫君のお話 作家名:みらい