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氷解き

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絹は氷解きの名人だった。草太、おまえは知っているかね。氷解きというのは、まあ占いのようなものだがね。
寒い夜、桶に水を張り外へ出しておく。そうすると朝には氷が出来ているだろう。それを鹿の脚の骨で叩き割り、上から南天の実を九つ撒く。
そうしてどのような相が現れるかを読み解くわけだが、これが百何十通りもあってね。全て覚えているのは絹くらいのものだった。

 この辺りでは次の日の天気や、山の狩り場、作物の種を撒く時期、年頃の娘は恋占いやら、なんでも氷解きで占った。
絹は狐坂の向こう側から嫁いで来たが、その占いがよく当たるとあって、すぐに近所に馴染んでね、相の解き方教室なんかもやるようになった。この家の中にたくさんの人が集まってねえ。
絹が来てからすっかりにぎややかになったもんだ。

 冬の内に様々なものごとを占っておくものだから、それはまあ忙しかったね。家のぐるりに桶をたくさん置いてね。なんせ自然が作る氷でないと氷解きにならないからね。それまでは冬の仕事と言えば紙漉きばかりだったがね、いつの間にか氷解き屋だよ。

 中でも新月の晩に行う氷解きは最もよく当たったね。大事な作物の種撒きの時期は必ず新月の晩にできた氷を使って占った。次の年の収穫に関わる事だからね、外すと大変な占いだった。
しかし一度も外さないのが絹の氷解きだった。占いで出た日に種を撒けば、どんな種類でも必ず豊作になった。それで皆ずいぶん楽をしたよ。

 草太、おまえはすこし色が薄いね。ばあさんによく似ているから、あまり濃くならなかったのだろうね。
ああほら、餅が焼けた。少し端が焦げてしまったな。ここは落として食べなさい。
 
 絹も色の薄い女だった。肌も白いが髪も白い。
瞳は琥珀のような色をしていてね。狐坂の向こうでは、それでたいそう虐げられたそうだが、一目見ると魅入られてしまううつくしさをしていたね。
こちらの土地では髪の色やなにかを気にする人は少なかったしね、氷解きはよく当たるしね、ずいぶん皆に慕われて、絹も居心地がよい様子だった。
 
しばらくしてお前の母さんが生まれた。あれも寒い冬の明け方だった。東の山間から昇る真新しい朝日が赤子のつるりとした頬を照らした。
絹はたいそう喜んで、大事に大事に育てたものだ。
 
作品名:氷解き 作家名:にょす