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あいねの日記1.5日目

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 夢に戻る。
 まるで眠りに落ちるようにまたこの世界に引き戻される。
 私はいままでなにをしていたのだろう。
 なにをしていたなんて周りを見渡せばすぐに分かる。
 そう、眠っていて起きたところなのだ。
 ぼんやりと天井を見上げつつ納得させようとする。
 ならば、なにかに打ち込んでいたこの感覚はいったいなになのだろう。
 夢だったのだろうか?
 そんな事をまだはっきりとしない頭で考えてみる。
 そのまま感覚が戻るまでの間、ベッドの上でまどろみに身を任せる。

 ふと時計に目をやると、今日も目覚ましが鳴る前に起きられたようだった。いつも起きられているはずなのに、目覚ましの設定時刻を過ぎていないかと、いつも不安に駆られてしまう。癖かもしれない、いったいなにを不安に思う事があるのだろう。
 さあ、いつまでもこうしてはいられない、そろそろ支度をしなければ。着替えを済ませ、髪を梳かし、昨夜寝る前に準備しておいたカバンの中を確かめ、階下に降りる。
 いつもどおりの毎日の始まりだ。


 顔を手早く洗いリビングを見渡すと、いつもと変わらぬ父が新聞に目を落としている姿が見えた。
「お父さん、おはよ〜」
「おはよう藍音、生徒会選挙に立候補したそうだな、ついさっき母さんから聞いたが驚いた。受からなくてもいいからやりたいように精一杯がんばってきなさい」
 そう口にする父の視線は私に向けられる事はなく、手元の新聞記事に向けられたままだった。父が無関心な性格と言うわけではない。きっと相談に乗れないような悩みを抱えている娘の力になれず、申し訳ないと思っているのだろう。
「ええ、そのつもりよ。これで内申が良くなるのなら、やって損は無いもの」
 良くも悪くも子供の自主性に任せている放任主義なのだ。

 私の家では夕食は各自だが、朝食は出来る限り同じ時間に摂るようにしている。夕食は父の帰りを待っていては、遅くなってしまうのだから仕方ない。それならば朝くらいはと、母なりに家族の揃う機会を作りたかったのだろう。
 とは言っても、妹がぎりぎりまで寝て過ごしているせいもあり、自然とすれ違いも多くなりがちになる。
 「来年は一緒の高校に通うんだ」と豪語しているが、どこまでが本当なのかは怪しい限りだ。私からすれば、遅くまで勉強に励んでいても、日々の生活に悪影響が出てしまうようでは本末転倒でしかない。

 藤倉家の朝は、妹の慌ただしさを除けばだいぶのんびりした印象がある。父の性格から、時間にだいぶ余裕を持たせて出勤に備えている事が大きな要因だろう。
 それに合わせて支度をしなければいけない母にすれば、たまったものではないように思える。だいたい父は、私よりも起きる時間は早いものの、出かける時間は私より遅いのだ。特になにをしているわけでもないはずだけど。

 そんな事をつらつらと思いつつ、いつものように朝食を済ませた私は、学校に向かうために家を出る事にする。
「それじゃあ、学校に行ってきま〜す」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
 けっきょく今朝も妹とは顔を会わせないままだった。もう少し待っていれば起きてくるのかもしれないが、週に三度も顔を会わせればいい方なのだから仕方ないだろう。


 私には朝の恒例となっている買い物がある。多少、遠回りになってしまうがそれでも欠かさずに足を運んでいる。なにかと言うと、わざわざ朝から新聞を買い求めるために出向いているのだ。
 それなら配達してもらえばいいだろうなんて言われてしまいそうだが、既に我が家でも新聞を配達してもらっている。父のために朝刊を二誌、夕刊を一誌取っている。それでも、わたしが目当てとする新聞は扱ってはいなかった。他を当たってみたが扱っている配達業者は見つからなかった。きっと扱っているお店自体も少ないのだろう。
 仕方なくいつもの店へと足を運ぶ。それは私が偶然通りがかった際に、ふと立ち寄った貴重なお店。私以外の誰のために置いているのか、不思議に思えて仕方ない。
 そんな不思議な新聞は、単なる英語で書かれているだけの新聞。それでも田舎町で目にする事はとても珍しい。私が知る限り英字新聞なんてものが珍しく売られているのは、このお店だけだから。

「おはようございます、いつものくださいな」
 いつものように小銭を渡し、新聞を受け取る。
「おう、いつもありがとうよ。今日も一日がんばりな」
「おじさんもよい一日を、それでは」
 そしていつもの決まり文句のようなやり取り。
 英語などでは挨拶と言うものは、相手に良い朝でありますようにと祈る意味があるのだそうな。良い朝ですねと話のきっかけを作るためではなく、あなたにとって良い朝でありますようにと祈るためなのだ。
 日本語の挨拶にもなんらかの由来はあるのだろう、「早い時間です」「今日は」「今は晩です」、そのまま直訳してしまうとまったく意味が分からない。
 そんな疑問はともかく、せっかく祈るのだ。沈んだ顔で祈るのでは、ご利益などなくなってしまう。挨拶には精一杯の笑顔をこめるべきだろう。
 そうしていつもどおりに英字新聞を手にし、学校へと向かう。これが私の変わる事のない変わり映えのしない、いつもどおりの朝。


 私は部活動に所属しているが朝練に参加はしていない、本来であれば参加するべきなのだろう。我が陸上部でも、早朝練習は行われているのだから。
 部活仲間でもある舞は、朝練に欠かさず参加している。今では部長などと言う肩書きを持つせいもあるが、舞は以前から率先して参加していたのだ。これは部長を任される前どころか、入部当初から一切変わっていない。
 私はなぜ参加しないのかと言われれば、部活動よりも知識を積み上げる事に時間を優先させたいのだ。早めに登校し、とくに読みかけの本でもない限りは朝刊に目を通すように心がけている。
 良くも悪くも協調性に欠けているのは、自他共に認めるところ。興味が向けば努力もいとわないのだけど……。

 席に着き新聞に目を向ける、もともと日本向けの新聞ではない。日本の内情に関して言えば、ためになるとはさっぱり思えない。世界規模のニュースならともかく、小さな島国をわざわざ取り上げる事は極稀と言える。掲載されるとしても、せいぜい国内有名企業の経済動向程度だろう。
 そのせいもあり近隣でちょっとした事件が起こっていたとしても、私は知らない事が多いのだ。もっと言えば、流行のドラマやバラエティーにも、今ひとつ関心を持てないのも相変わらず変わらないところ。
 一応、朝の数十分のニュース枠で、その日の天気を含めた情報を仕入れてはいる。だとしてもそれは、女子高と言う環境の中では埋もれていく知識に他ならない。無理に話題に出しても煙たがられるだけでしかないのだから。
 そうとわかっていても流行のテレビ番組より、マイナーなフランス映画を見て過ごす機会が多いのは、今更変えようが無い事でもある。
 英語を学ぶ際は、英字新聞やテレビの副音声などの勉強の材料は、手を伸ばせば届く身近にあるのだけど、仏語や独語となるとそうあるものでもないのだ。独語の時はたまたま他の手段を取る機会もあったのだが……。
作品名:あいねの日記1.5日目 作家名:Azurite