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レジで前に並んでる奴のTシャツの背中のロゴでした

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 ついに今日、Twitterが匿名システムになった。

 その当日〇時ちょうどを境にして、アイコンは全てデフォルトの卵アイコンで統一された。ユーザー名もプロフィールも、つぶやきのログまで全ユーザー分のそれらが一斉に削除された。ユーザーが各々命名していたユーザーIDも当然削除された。この新しいTwitterにおいては、IDは毎日〇時を境にして日替わりで付与されるようになったようだ。

 そして、どうやらオレの記念すべき新Twitter第一日目のIDは、kHFcc38SDらしい。

 kHFcc38SDのプロフィール欄を開いてみる。画面のデザインは従来のTwitterからさほど変わっていない。『ツイート数』、『フォローしている数』、『フォローされている数』、『お気に入り』の数が今までと変わらず表示されている。『リスト』と『おすすめユーザー』は廃止されたらしい。匿名システムの性格上仕方ないことだろう。

 『フォローされている数』をクリックして、フォロワー一覧を表示する。そこにはユーザー名もプロフィールもなく、今のオレと同様、アルファベットと数字の適当な羅列で形成された名前と、すでに飾り以外の用途を失った卵アイコンだけが十七人分並んでいた。
 『IDは毎日自動生成され、この画面上では昇順でソートされています』
画面の上のほうに、小さく説明文が表記されていた。かつての自分のフォロワーたちさえも個々の特定は不可能ということだ。匿名システムの性格上仕方ないことだろう。

 フォロワー一覧から適当に選んだ一人のタイムラインを表示した。どうやらつぶやきのログは、当日分だけは保存されるらしい。

 『新ツイッターの過去ログは、Twilog等の既存アプリでは保存できない模様。わたしはこのリンク先のアプリを使ってます http://www……』

 『私は元WarPig2011です。フォロワーの皆様、これからは一日の最初のツイートで元IDを名乗るようにしませんか? このままtwitter社の言いなりになる必要はないです。匿名システム、断固反対です!』

 このGwY24EDG9(元WarPig2011)のように、Twitterの匿名化を許容できない者は少なくない。十五人ばかりのオレのタイムラインも、最近はその話題で埋め尽くされていた。Twitterが匿名化されることがアナウンスされたのは一ヶ月ほど前のことだ。そして、それとタイミングを合わせたかのように、業界最大手G社による新規のSNSがサービスを開始した。
 名前はたしか『Twisster』だったか。
 名前も似ているが、システムも酷似しているらしい。そして、匿名化反対派の多くがそちらに移ったらしい。

 何がどうあれ、個人的にはどうでもいい。

 一応名乗っておくと、オレは元jailedmonkだ。べつに、この名前にそれほどこだわりはない。kHFcc38SDでも何でも好きに呼んでくれて構わない。実際、オレのフォロワーたちでさえ、jailedmonkなんて名前など覚えていないかもしれない。
 もちろんそれは、オレが誰からも無視されている空気のような存在だということでは、断じてない。

 オレは、Twitterで小説を書いている。

 オレは基本的に、Twitterでは小説しか書かない。フォローされれば一応義理でリフォローしているが、誰かとリプライやダイレクトメッセージをやり取りするわけでもなく、日常の出来事や愚痴を垂れ流す訳でもなく、ただひたすら小説だけを書き続けている。
 被差別部落出身である主人公がいわれなき差別や迫害を乗り越えてF1パイロットを目指すという長編小説。一ツイート一四〇文字、そのうち小説用のハッシュタグと小説タイトルである『RATM(Rage Against The Machineの略)』とエピソードナンバーの文字数を差し引いた一二〇文字で、読者を惹きつけるような伏線を敷きつつも、毎回それなりの見せ場もあって読み応えのある内容を心がけている。
 一日に最低でも五〜六話、多いときで二十話分ほどタイムラインへ流している。フォロワーたちからはリプライやお気に入り登録といった具体的な反響はあまり無いが、オレが小説をドロップした直後のタイムラインでは、『今日は面白かった』『だんだん盛り上がってきましたね』等の独り言のようなつぶやきが散見される。たまにだが、オレも気が向いたときは、その“空中リプライ”と呼ばれる行為を真似て、『どうもありがとう』『お互い頑張りましょう』などと独り言のようにこっそり返信することぐらいはある。

 そんなオレだから、Twitter上で匿名になったとしても、さして問題はない。
 フォロワーたちはオレをjailedmonkとしてよりも“『RATM』の作者”として認識しているだろうし、『RATM』を書き続けている限り、オレはオレでしかないからだ。

 ただし、ひとつだけ気になっていることがある。

 それは、オレのフォロワーの一人であるモモ(@momo_chang_1221)のことだ。







 半月ほど前、オレのTwitterにこんなDMが届いた。

 『こんばんは モモです 初めてDMします RATMはいつも拝見してますが 一冊にまとめたりしないんですか?』

 そのmomo_chang_1221というアカウントは、オレにとって十七番目のフォロワーだった。つまり、ごく最近知り合ったばかりだ。彼女もフォロワー数が十三とあまり多くはなく、珍しく自分と似た境遇だと思い、すぐにフォローを返した。オレのフォロワーのほとんどが数千人単位をフォローするTwitter中毒者であり、その中の約半数が何故か通販サイト等の紹介ばかりしている。といっても、タイムラインで他人のつぶやきなどほとんど読むことはないオレからすればどうでもいいことなのだが、彼らのほうからしてみれば、数千人分のつぶやきの中から『RATM』を探し出すのはさぞかし大変だろうに、といつも思っていた。

 『メッセエジ有難う御座います。jailedmonkです。一冊に纏める作業よりも、先ずは物語が完結することに注力する次第で御在います。完結後も改めて推敲や加筆も必要になるかと存じます。まあ、楽しみに待って居て下さりますれば』

 DM送信後、三分で返事が来た。

 『jailedmonkって変わった名前ですね よかったら由来を教えてもらいたいです』

 『今は伏せておきましょう……下弦の月が美しい夜にでも、また。』

 そう打ち込んでから、あえて十分ほど時間を置いてから返信した。すぐに返信すると、DMに喜んでいると勘違いさせても申し訳ないと思ったからだ。

 ともかく、それがモモと名乗る彼女とのファーストコンタクトであり、Twitterにおいて初めてのDMのやり取りでもあり、Twitterにおいて初めての、確固たる他者とのコミュニケーションだった。

 さらに言えば、オレの人生において初めての、読者からのファンレターでもあった。
 モモがオレのファン第一号を名乗ったとしても、オレとしては一向に構わない。