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ワールドイズマインのころ

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半透明




「荘一、」
「ん、何?」
「あいつあいつ」
「え」

クラスメイトに促されて見れば引き戸の影に、というかほぼ引き戸の影そのもの然として、青白くて長いやつが立っていた。
見つけてもらえたのが奇跡だ。この時点でもう俺にしか見えてないんじゃないかと思う。
目が合うとにょき、と首をのばしてみせた。入ってくればいいのにといつも思うけれど、今日も俺はいつも通りこいつに甘い。

「なに」
「マキロン持ってない?」
「は、マキロン? なんでまた」
「……これ、」
「ううわ。またあけたのお前」
「いや、こないだあけたとこから出血しちゃって」
「グロいわ。こっちくんな」

みちるの耳たぶには、いくつかの半透明のピアスがついている。
そのひとつがある意味で透明になっていた。
耳たぶも、それをおさえていた指先も、真っ赤に濡れている。
とりあえずそれ取ればと言ったら、ふさがっちゃうからやだと返された。

「なんでそこまでしてそんなんするのよ。言わばっつうかもう完全に怪我じゃんそれ」
「んー」
「わかんねえなあ」
「そうちゃんはしなくていいと思うよ」
「しねえよ。すみれに頼んだらいいじゃん、あいつ保健室得意でしょ」
「あー……」
「何」
「彼氏だと思われつつあるから教室来ないでくださいって言われた、こないだ」
「なんだそれ、すみれのくせに生意気な。じゃあメールすりゃいいじゃん」
「携帯今日もってない」
「とことん駄目だねおまえ」

また耳たぶをさわろうとする指をのけて、そのまま肘をひっぱって歩き出す。
ひっぱらなくてもきちんとついてくることを俺はとてもよく知っているけれど、その事実に何故か少しいらついた。

「どこいくの」
「水道。体育館とこの」
「なんで、」
「人いるとやなんでしょ?」

振り向かずに言ったら、みちるはそれきり黙ってしまった。
少しかわいそうになったので、体育館の影に入ったところで手をつないでやった。

水道の蛇口をうわ向けて右耳を冷やしているみちるを見て、せめてタオルくらい持ってくるべきだったと気付く。
すみれを呼ぶか。呼ぶまいか。
携帯をパカパカさせていたら、満足したらしいみちるが顔をあげてこちらを見た。
呼ぶのはやめた。

「とまった?」
「わかんない。見て、」
「……うえ、微妙。つうかさ、なんでこれ半透明なの」
「え、」
「透明のほうがばれないじゃん」

腫れて熱っぽい耳たぶに、舌をあてて噛みつく。
そのまま強めにひっぱると、うしろの留めるやつが外れかけて、きゅっと音がした。
みちるが息をとめて痛がっているのを生々しく感覚して、自分の息もとまる。
顎の付け根あたりに嫌悪が込み上げて、サディストにはなれないなと思った。

「そうちゃん、……だめだよ」
「何が」
「透明だと、光るから」
「……ああ。そっか」
「うん」
「ポカリスエットって人間のなかの水に似せてあるっていうけど、あれ半透明だね」
「……うん、」

涙はなんで透明なのかな。
言いかけて、くちびるがくっついた。
始業のチャイムが鳴って、俺と、恐らくみちるは、それをとても煩わしく聞いた。