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小さな鍵と記憶の言葉

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「さすがは、白兎の選んだ少女だけはある」

 無事アリスを送り届けた芋虫は、再び自分の部屋へ戻ってきていた。
 相変わらず物は減らないままだが、飾り棚と本棚の周りは幾分か調えることができたと満足する。
 ひとり、窓辺に佇んで時計塔を見る。空は未だ灰色のままだが、あれがいつか青色を取り戻すだろうことを彼は予期していた。

 誰に言うでもなく、磨かれた硝子に向かって声を吹きかけて、ちらりと飾り棚の唯一鍵のかかった戸棚を振り返って。
 この部屋で唯一施錠の利く場所。大切に仕舞われた『それ』。それからまた、すぐに窓の外を見渡す。

「さて、リラ。君は果たして、選ぶことが出来るだろうか」

 アリスの迷う道はいつだって二つ。声高く懸命に道を知らせても、最後に行き先を決めるのはアリス。
 その瞳は儚く、淡く色付く未来を待ち望んでいた。
 ――先に待つものは、幸か不幸か、吉か凶か。

 *