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りんみや あんにゅい4

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娘が監視しているので、と、芙由子が報告してくれた。それなら、しばらくは大人しいだろう。一応、定期連絡の折りにでも、細君で、自分の雇用主にも知らせておことにした。
「あら、とうとう倒れたの? 」
「愛情の欠片が見当たらない発言ですよ、瑠璃さん。」
「そうかしら、大いに驚いているのよ、これでも。」
「心配とかしないもんですか? 」
「そうね、みやくんが帰ってくる頃になっても、起きられなかったら本格的に心配するわ。」
 あっさりというか、さっぱりというか、林太郎の女房となった瑠璃は、夫の影響なのか、夫の体調には無頓着だ。倒れて身動きが利かないというところまで、悪化していても、この程度の反応である。
「まあ、よろしいですけどね。予定は順調に消化されていますか? 」
「もちろん、順調。時間があったら、米国へ寄って来るつもりなの。」
 自分の実家へ遊びに出向いた息子の顔を拝んでこようという魂胆なのだろう。どういうわけか、今回は、執事のはずの加藤が、秘書役で出向いた。訪問先が、加藤が、昔から懇意にしていた先であるから、という理由だ。一般的に言われる執事と、加藤のしている執事の仕事は、かなり違う。どちらかといえば、秘書に近い仕事だろう。別に銀食器を磨いていることはないし、朝食をベッドまで運んだりはしないからだ。
「せいぜい、ジャックを喜ばせてやってください。とうちゃんのほうは、面倒をみておきます。」
「お願いします。りんさんに逃げられたくなかった、真理子でも呼び寄せれば? 」
「芙由子さんが、連絡してくれました。」
「さすが、芙由子さん。じゃあ、真理子によろしく。」
 女性陣は、みんな、同じ手を考える。りんが、娘には弱いことを、知っているからだ。



 仕事の都合で、街のオフィスのほうへ顔を出した。ついでに、病院にも顔を出す。
「あれ? 」
 ベッドはもぬけの殻だった。うーん、と、しばし考えた。逃亡防止のため、普段着、靴、コートなど外出できる衣料品は、ここには運んでいない。近くのコンビニぐらいはいいだろう、と、文句は言っていたが、それも、今のところは、無理だろう。「大袈裟な。」 とか、ぬかしているとうちゃんは、微熱が続いていて、身体的には、かなりしんどい状態ではあるからだ。
「さて、どこだ? 」
 まあ、こういう時は、子供と同じ事をやりやがるんだろうと、浦上は階段を上る。最上階の病室なので、そのすぐ上は、屋上だ。子供が入院していた時も、よく、屋上へ逃亡していたから、似たもの親子なりんも、同じ事をしてるんだろうと、予測した。




 世の中わかんないもんだなあ~と、しみじみと空を見上げた。いろんなことが、連鎖して、子供拾って、結婚して、娘も増えて、こんなところに座っている。どれひとつ取っても、二十年前のぴちぴちの二十歳だった自分には、想像できていなかったことだ。二十五で、子供を拾った時も、その年に、職場から独立した時も、やっぱり、世の中わかんないもんだ、とは思ったが、ここまでくると、ある意味、世の中というのは平々凡々と生きるほうが難しいのか? と、勘ぐりたくなる。
「まあ、いいようには転がってるな。」
 りんにとっては、いいように人生は転がっているだろう。瑠璃にとっては、微妙かもしれないな、とか思って、苦笑する。病持ちの子供を連れた貧乏人と結婚するなんて、どう考えても、いいようには転がっていない。だが、そんなことを、当人に告げたら、確実に殴る蹴るだ。それを想像して、声が出た。ひとりで、笑っている不気味なおっさんだよなあ~と思うと、さらに、笑いがこみ上げてくる。
 さすがに、寒いから屋外ではなく、正面の硝子窓から、空を眺めていた。無性にたばこが吸いたくなったものの、いかに可愛い娘でも、それは、「ダメ」と、買って来てくれなかったのだ。いくらかの小銭はあるが、この真冬に、パジャマ一枚で、ちょいとコンビニまで、というのは辛い。どっかに、吸い殻は落ちてないかなあ、とか、屋上を探してみたが、生憎と落ちていなかった。
 また、こうなってくると無性に吸いたくなるわけで、そろそろエレベーターに乗ろうか、と思っていたら、階下から靴音がした。
「あのなあー、りんさん。」
 上がってきたのは、浦上で、手には、コンビニの袋を提げている。
「よお、ウラさん。」
「あんたなあー、こんなとこで、ぼぉーーっと空を見てるんなら、部屋で見ろ。一階しか違わないだろうが。」
「開放感というものは、屋上のほうがあるんだよ。」
「うそつけっっ。どうせ、シケモクでも探してたんだろ? そういうのは、いくらなんでも衛生上問題だぞ。」
「一週間も、いきなり禁煙したら、禁断症状が出るんだ。」
「そりゃそうだろう。あんた、ヘビーだからな。ほら、これ。」
 ぽんと、軽く投げられたコンビニの袋は、軽かった。りんが、いつも吸っている銘柄のたばこと、ライターと、ご丁寧に携帯灰皿まで、入っていて、さらに、熱い缶コーヒーまで入っている。至れり尽くせりな代物だった。
「どうかしたの? ウラさん。」
「親切心拡大増進フェアをやってるんだ。」
「へぇー、珍しい。・・・ありがとう、今から、買いに行こうかと思ってた。」
「まあ、そんなことさ、あんたはな。外で吸ってくれ。こんなとこだとバレる。」
 ふたりして、日当たりのよいベンチに座ってたばこに火をつける。
「なんぞ、依頼? 」
「・・・仕事さ、ちょっとやめないか? りんさん。あんた、大概に無理しすぎてるだろ? ここらで、ちょっと休養して、心身共にリフレッシュとかする方向に転換してみるっていうのは・・・」
「それの懐柔に、たばこと缶コーヒーって、やっすいなあー、俺。」
「それは利息だ。」
「じゃあ、本体は、何? 」
「まだ考えてない。小椋とも相談した結果、そういうことにしてもらえないか、と、結論した。」
 まあ、そんなことだろう。そうでなかったら、五月蠅い浦上が、健康に悪いものばかりを持参するわけがない。
「それは無理だ。どっちにしろ、しばらくは、屋敷に帰らないつもりだしな。」
「はあ? 」
「去年、和田の会社が不渡り出しそうになったんで、買い取ったんだよ。」
「え? 」
「いや、そんな大層な額じゃないんだけど、和田が持ってた株を買い取るという処理にして、金を入れたんだ。まあ、元はといえば、俺が仕事を外れたのが原因の一端だったからね。」
 買い取ったという噂が流れたら、うちにも資金提供を、とか、共同で経営を、とか、りんと仕事をしたいとか、そんな用件が、五万とメールされてきた。さすがに、その時は、子供優先だったから、一年待てと、メールした。そろそろ、その話も再燃しているし、和田自身が、りんの復帰を待っている状態だ。五年間、仕事は控えめにしてきたが、それなりに選んではいた。普通のSEではこなせないだろう特殊で実入りのよいものを選択していたら、余計に付加価値が増したらしい。ついでに、その収入は使う暇も、ほとんどなかったから手つかずで残っている。
作品名:りんみや あんにゅい4 作家名:篠義