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金田正太郎の懐疑

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 オレがその名前を知ったのは、一年前になる。
 まだ野球部のピッチャーだったオレは、幼馴染みの野球部マネージャー、大庭叶からその話を聞いた。
「屋上が乗っ取られたぁ?」
 ――オレらが通う南田高校には、妙な伝統がある。偏差値が高くもなく低くもない南高は普通の奴から不良まで、幅広く入学してくる。んで、その伝統ってのは不良どもに関係することで、『東校舎の屋上は代々南高三年最強の不良のもの』――とかいう話だ。まあ最強っつっても、屋上に居座りたい奴が勝手に争奪戦を繰り広げるだけだ。それでも屋上に何のロマンを感じるのか知らねえが、屋上の覇者は大体南高最強と名高い奴のことが多い。一年前もそうだった。
「……今の屋上の覇者って、あの高花田先輩だろ? 誰が代替わりしたんだ?」
「違うって正、代替わりじゃなくて、乗っ取られたんだよ!」
「だぁら、それがわかんねえんだけど。乗っ取られたってなんだよ?」
 屋上は常に争われる。一度覇者が決まっても、他の三年が名乗りを上げればバトルになる。バトルには公平な立場の証人が必要で、内容は覇者側が決める。喧嘩からゲームまで様々なもんだが、何はともあれそのバトルに挑戦者が勝てば屋上独占の権利は挑戦者に移行する。それを代替わりって呼ぶんだが、今回はそうじゃなかった、ということだ。
「一年が高花田先輩とバトって乗っ取ったんだ!」
「……はあ?」
 屋上独占権継承戦の埒外にいる一年が、伝統を破って屋上を乗っ取る。
 前代未聞のそれをやってのけたのが、十海寺春だった。

作品名:金田正太郎の懐疑 作家名:森園