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犬のお巡りさんを壮大にしてみた

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第五章 記憶 〜Missing Memory.


灼熱の太陽から生まれる熱線が容赦なく地表に降り注ぐこの砂漠にて。
二つの群衆がお互い火花を、噴煙を、火薬の匂いを撒き散らしていた。
滲み出る汗ですら、急速に蒸発するこの気温の中で、二つの群衆は衝突していた。
正義だろうが悪だろうが、そんな概念などまったく無いと言ってもいい。
これは、交渉の決裂により生まれた衝突なのだ。
お互い自分のミスを認めずに相手が原因だと罪かどうかもわからない事情を押し付けた結果だった。
頭を四六時中フル回転させる某行商人ですらもこのような結果はいとも簡単に避けることができる程の事情だった。
だが、この二つの群衆はそれを避けられずにジャイアニズムな方法で解決しようとしたのだ。
それが衝突という形でお互いは潰し合うことにした。

そのぶつかり合う群衆の一つである『BLACKMAIL』という名のテロリスト集団が先陣を切っていた。
巻き上がる砂埃の中で頭から血を流している屈強そうな男が罵声を上げる。

「おらぁッ!!もっと弾持ってこねぇか!このノミ虫野郎どもがぁっ!!こんなんじゃ奴らを潰すなんてこたぁ無理だぞッ!!?」

手には砂地でも動作不良がなかなか起きないAKシリーズであるAKS-74を強く握り締め、それを右手で上へ掲げながら弾が装填されたマガジンを左手で空高く真上に投げた。
マガジンは日の日差しを遮るように回転しながらゆっくりと宙を舞った。
直後に、
パァン
と。
男は小さな鉛の塊が雨のように降り注ぐ中で、宙を舞うマガジンを撃ちぬいたのだった。
すると途端に男が隠れている遮蔽物の先にいた五、六人の男達が次々に倒れこんだ。

「ハッハぁぁっ!!どうだ!?見たかぁっ!」

男はやり遂げたように豪快な笑い声を上げる。
相手の方は何が起きたのかを理解するのに必死なようで、チラチラと遮蔽物から顔を出した後に倒れた味方を自分の遮蔽物に引きずり込んだ。








「おい!何が起きた!?」

灼熱の砂漠にもかかわらず、分厚いゴーグルとヘルメットを被った軍人らしき男が今にも生き絶えようとしている同じ装備の男に何が起きたのかを聞いた。

「っが!・・・・・・ごほっ!・・・・・ああ、クッソ!」
「しっかりしろ!何が起きた!?」

もう一度繰り返すと、生き絶えそうな男は震えた手をゆっくりと動かしながらポッケから注射器を取り出し自分に打った。
戦闘中なので直接服の上から注射をする。
静脈は見えないが、そこは男の勘ということにしておく。

「ああ、がッ!・・・・はぁ・・・・落ち着いた・・・・」

男が自分に打ったのは恐らく精神安定剤か、またはアドレナリンだろう。
アドレナリンは傷の感覚を麻痺させ、一時的な興奮状態にするもので、普通は戦闘前に打つべき物だ。
もう一方の精神安定剤は、その逆で、彼が打ったのは恐らくこれで間違いない。

「で、なぜ突然倒れたんだ?しかも一斉に・・・・」
「・・・・・マガジンだよ・・・・・あいつ、自分の投げたマガジンを撃ったんだ・・・・ったく正気じゃねぇぜ、アイツ。もしマガジンが下を向いてたら自滅だったってのによ。それをお構いなしに撃ちやがった・・・・・どういう動体視力してんだ」
「どいうことだ?・・・・・つまりマガジンが俺らの方に向いた瞬間にタイミングよく撃ちぬいたってのか!?」
「そうでなきゃおかしいだろ?さぁ、会話してる暇があったらアイツを潰すことを考えようぜ」

男はコクッと頷くとすぐさま射撃姿勢に戻った。
相手が超人だとすれば、こちらはなんだ?
いくら動体視力と射撃技術が優れていようが生き物は生き物だ。
絶対的な弱点くらい、いや、隙はあるだろう。
しかし、どうする?
この鉛玉が飛び交うなかでどう相手の隙をじっくりと観察するような方法がある?
むしろ短時間で見つけるしか無いという事自体は頭の中に浮かんではいた。

「よし、プランBだ!」

男が落ち着いたばかりの味方の肩を叩いて言い放った。
すると血まみれで今にも動けないと言っているかのような男が落ちていた自分の銃を拾い直し、構えながら答えた。

「ああ?んなもんねぇよ」

彼らの名は『W.C.A』
世界中に散らばるテロ集団を殲滅しようとしている民間軍事会社だ。