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天秦甘栗 因果応報

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エアーガンで庭の柿を狙っていた深町は、電話のベルで失敗してしまった。だれやー、と言いながら受話器を上げると秦海であった。この間の書庫の一件の礼を述べて、少し間が空いた。何かを言いたいことがあるらしいのだが、タイミングをはかっているようだ。言いたいことを言えよ、と思いながら深町の方から水を向けた。
「何か、おっしゃりたいことでも? 秦海さん」
「ああ、実は教えてほしいことがあるんだ」
 そしてまた沈黙、秦海にしてはとても珍しいことである。意を決したように、やっと秦海は、用件を切り出した。
「深町さん、同意のとり方というのはないんだろうか?」
 どひゃーと深町が大声を出してしまった。とうの昔に、同意なんぞとりつけたと思っていたのに、新婚4カ月弱を経過してなお、秦海は待っていたのだ。
「それって、まだ天宮は「うん」て言ってないってこと?」
「何回か尋ねてみたんだが、どうも」
 この間の書庫の一件で、深町が天宮をおとなしく従わせる方法を知っていることを実感した秦海は、同意もとれるのでは、と連絡してきたのだ。
「いや、別にストックがあるから、そう急にということではないんだが、やはりスキンシップというのがほしいなと思って」
 秦海のそういうお相手は10人ばかりいる。だから、そういうことがしたい時は、天宮が部屋に眠りに行ってからストックさんのところへ出掛けるようにしている。
 しかし、妻とイチャイチャしたいと思うのは、ありふれた感情だろう。
「押し倒してみたら?」
「そんなことしたら、離婚届に判を押さなければならないんじゃないだろうか…」
まあ、そりゃそうだわな、と深町も分かっている。普段、温厚な天宮をキレさせると、河之内のような目にあわされるのだ。
「いくら出す?」
 冗談で深町がそう言うと、秦海は本気で「いくらでも」と答えた。
「まあ、ヒントぐらいならいいかなー、あのね、天宮は朝、起きる時は記憶はないし、何を言っても「うんうん」って答えるのよ。知ってる?」
「えっ? 起こしたら、不機嫌だが?」
「違う違う、それは完全に起こすからー、一度、ちょっと声をかけると意識が戻ってくるからねー」
 ようはタイミングなんだけど、と深町は付け足した。あまり、詳しく説明してしまうのもなあ、とヒント程度にしておくことにした。秦海なら簡単に同意はとれるだろうと見越したのである。
「分かった。で、いくらほしい?」
 本気の秦海は、情報の値段を尋ねてきた。深町が少し考えて、「出来たら、温室が一つほしいんですけどー」 と、控え目な報酬をおねだりした。以前から、今の温室が手狭になってきたので、たたみ半畳程のがもう一つほしかったのだ。最近、天宮をハメてしまったので、それを忘れるまで我慢しょうと思っていたところだった。渡りに船とは、こういうことを言う。
「分かった。じゃ明日にでも手配しておく。ありがとう」
 どうやら、ヒントを理解した秦海は、ふたつ返事で了承した。



 次の日、いつもより早目に秦海は天宮の部屋を訪れた。まだ、ぐっすり眠っている天宮の側に座り込んで「おい」と、一度肩をたたいた。しかし無反応である。何回か、そうやってポンポンと肩を叩いて、ようやく「うーん」と声がした。
「天宮、起きてるか?」
 秦海が、トーンを起こして声をかけた。すると天宮は「うん」と答えた。おおー!! と秦海は喜んだ。
「俺のこと愛してるか?」
「…うーん」
「一生、側にいるか?」
「……うーん」
「同意してくれるか?」
「…うーん」
どうやら天宮は、無意識に答えているようで何でもかんでも「うん」なのだ。これはうれしいなあ、と秦海はニコニコといろんな質問をしてみた。そして思い付いて、レコーダーを持ち込んで、それらの言葉を録音したのだ。証拠は完璧である。しかし、当人が無意識と言うのがおもしろくない。ちゃんと目を開けた天宮に「うん」と言ってほしい、と秦海は本格的に起こすつもりで天宮の左手を持ち上げてみた。まだ無反応である。ついでに枕を取ってみたが、コロリと寝返りをうっただけだった。もしや、と秦海はその天宮の頭を上げさせて、自分の腕を下に入れて腕枕した。これは法外な喜びだ、と秦海はそのまま天宮の横に添い寝してみた。当人は知らずに寝入っている。ずっと今まで憧れていた腕枕をして、秦海はニコニコとして、しばらくそうやって楽しんでいた。これは深町さんのお礼を急いでしなくてはと思いながら、ゆっくりと天宮の寝顔を堪能した。
「天宮様! 朝でございますよ」
 いつもの時刻に井上がやって来たが、秦海が「しっ」と黙らせた。そして、ゆっくりと自分がベッドから出て、それから天宮を起こした。
「天宮、起きろっ!! 朝だぞ」
 本格的に、ゆり起こして天宮は「ふーん」と伸びをした。少し前に声をかけたのがきいているのか、あまり手こずることもなく天宮が起きた。しかし、すぐには動けない。
「天宮、おはよう」
 ニコニコと秦海は、そんな天宮を見ている。やっと意識がしっかりしてきた天宮は、秦海がパジャマのままなので、「寝ぼうしたの?」 と、尋ねた。いつも秦海は着替えてから天宮を起こしに来る。
「まあな、さっさと起きろ」
 慌てて秦海は、天宮に声をかけてごまかした。

 秦海の行動は素晴らしく早い。その日の午後、深町は来客を受けた。
「秦海さんから、至急こちらに温室をつくるように注文を受けました」
 相手は、設計図をスルスルと開いて見せた。建坪3坪の大きな温室である。えっ?と深町はびっくりした。本人が夢見ていたのは、この設計図の8分の1の小さなものだったからだ。
「ご要望があれば、なんでもお聞きします。大きさもご不満なら、もっと大きく…」
「いえ、これ以上大きいと電気代とか、維持費が…」
「ああ、そちらも秦海さんの方でもたれるそうです。ご心配なく」
おー、それはすごいっっ!!と深町は感動した。それならばと、かねてから欲しかったオプションを全て業者の設計図に組み込んだ。どうやら秦海はヒントをうまく活用したようだ。
「情けは人のためならずって、ほんとやなあ」
 裏の畑の側を実測している業者さんを、嬉しそうに眺めながら深町は独り言を言った。天宮が側で聞いていたら、それは違うー、と異議を唱えただろうが、あいにく龍之介しかいなかった。
「りゅうちゃん、寒くなったら、あそこで昼寝しような」
 もうすっかり、憧れの温室のある世界に行ってしまっている深町は、ニコニコと龍之介の頭をなでた。


 このところ、朝から秦海は上機嫌である。なにせ、天宮に腕枕などして、二人で同じベッドで寝ているのだ。こんなに嬉しいことはない。最近の秦海は朝5時に起床して、天宮のベッドに行って腕枕をして、再び7時まで眠るのである。どんなに夜が遅かろうとも、毎日そうやって天宮とスキンシップをはかっている。
「最近、なんかいいことあったの? 秦海」
 夕刻に、ウキウキした秦海が鼻歌など唄っているので不思議そうに天宮が尋ねた。まだ、当の本人は知らない。
「別に、何もない」
作品名:天秦甘栗 因果応報 作家名:篠義