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天秦甘栗 用意周到2

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 決して破らないでおこうと天宮は心に決めた。何が悲しくて秦海にキスなんぞしてやらにゃいかんのよ、と思ったからだ。
「部屋はどこにする? いつもの部屋でいいか?」
「私の部屋? まあ空いてるとこならどこでも。」
「荷物は、もう運んだからね。後で整理手伝ったげるから。」
 深町はそう言って、封筒を天宮に差し出した。返金された敷金であった。
「えりどん!! いつから、こんなことをしてたのかなあ?」
「だいぶまえー、楽しかったよー、全然気付かんもんな、天宮は。」
 深町には、しっぽでも生えてるのじゃなかろうかと天宮が、ケラケラ笑っている深町の背後にまわったが、見えない。
「…しっぽがない。」
「昼間は見えないよーん。」
 少し席をはずしていた秦海が、手に小さな箱を一つ持って戻って来た。天宮に手渡して、開けろと言う。
「婚約指輪だ。事が後先になっているが、まずそれは天宮のものだ。」
「それよりも、うちの親に話を通さないとね。」
 突然だから両親が驚いて、待て待てと止めてくれるかもしれないと天宮は思った。しかし、秦海はいやいやと頭を振った。
「2年程前に、天宮のご両親には話を通した。本妻さんが嫁ぐまでは、黙っていてくれるように頼んでおいた。だから正確に言えば、結納はその時に終わっているのだ。」
 親まで、だまくらかしてたのか、と天宮は溜め息をついた。そう言えば、あれ程うるさかった両親がある時からぷっつりと結婚しろと言わなくなった。あきらめたのかと天宮は思っていたのだが、真実は違ったらしい。
「天宮、神式とキリスト教とどちらがいい?」
「何のこと?」
「結婚式だ。一応、両方押さえてるんだが、おまえのやりたい方にと思ったので。」
「そんな……、まだ早いよ、ちょっと落ち着いてからにしようよ。」
「しかしなあ、式は一週間後だ。どちらにしても衣装のこともあるから…、決めてくれ。」
 げえーと、天宮が声をあげた。いきなり婚姻届にサインさせられたと思ったら、1週間後に結婚式とは驚く以外何もない。
「どうして、そう急ぐの? なんかあるの?」
「1週間もすると、本妻さんがハネムーンから帰って来る。いきなり成田離婚でもして、天宮のもとへ戻られたら困る。」
 秦海は、天宮と本妻さんの仲をよく知っている。彼女が独身に戻ったら、天宮は秦海のことなど簡単に捨ててしまうだろう。それが怖かったのである。先に天宮を嫁にしておけば、本妻さんも少しは気を使ってくれる。これが秦海と深町が、天宮を押さえ込むために考えた作戦だったのだ。2人ともそれだけが気掛かりだったので、こんなアップテンポに事をすすめている。天宮本人は気付いていないが、本妻さんが側にいる時といない時では天宮の脳の回転スピードは大幅に違う。(仕事のときは、さらに高速回転する頭脳だが、オフは止まっているという噂のある天宮の脳である)本妻さんが不在で、がっくりとスピ-ドのおちた脳は秦海に反論する能力を著しく低下させていたのであった。それを深町は知っていて、今の時を選んだのだ。
「ウェディングドレスか? 白むくか?」
「どっちでも、秦海はどっちがいい?」
 半分ヤケになった天宮は、ぶーぶーとふてくされて、あさっての方向を向いている。
「天宮!! 一生に一度のことだぞ!」
 一生に二度あってもいいじゃないか、と天宮は思うのだが、そんなことを言ったら秦海が泣き出しそうなのでやめた。
「じゃ、めんどくさくないの。」
「ウエディンクドレスだな。あと、出席者は誰と誰だ?」
「うちは誰も呼ばなくていい。」
「そうはいかん。一応、天宮の上司と部下はよばなきゃならんだろう。それと親戚筋か。まあ、そこは考えておく。」
 もう反論する気もない天宮は、だまってうなずいた。そこへ親父殿が、いつものように騒々しくやって来た。手には大量のカタログを持っている。
「あまみやー、やっとわしのことを「お父さん」と呼んでくれるんだな。
んっ?」
「秦海家が、滅んでもいいなら。」
「なあに、心配いらん。天宮がどんなわがままを言っても、うちの家が傾くことはないぞ。心配せんでもいい、それより天宮の部屋に入れる家具だがな、急なことなので、たいしたものは用意出来ないんだが、どれにするね。」
 すっかり舞い上がっている親父殿は、ドサッと家具のカタログを机においた。そして熱心に、いろいろな家具を天宮にすすめるのである。天宮が適当にうなずいている間に、勝手に家具も決まった。
「さあ天宮「お父さん」と呼んでくれないかね。」
「えっ?」
「もう婚姻届にサインしたのだろう? それなら、わしはおまえの父になったのだからね。」
「…おとうさん…」
 しぶしぶながら天宮は、親父殿にそう呼びかけた。うれしそうな親父殿の気分を害するのも悪いと思ったのである。
「…ああ…待ったかいがあった。明日から何をして遊ぼうかな。まずゴルフだな。」
「いや、仕事があるから。」
「辞めんのかね。」
「うん、働くよ。」
 はっきりと天宮がそう言ったので、親父殿は「わたるー」と秦海を恨めしげににらんだ。
「『仕事の邪魔はしない』という約束なのだ。」
 涼しげな顔で、息子はそう言って親父殿に誓約書を作成したことを説明した。
「わしとも約束してくれんか、あまみや。」
「何をです、おやー、おとうさん。」
「月に一度は必ずデートすること。」
 前もそうだったように思うのだが、天宮はにこりと笑ってうなずいた。親父殿は嬉しそうに笑っている。
「天宮、親父には甘いな。」
「親父殿とは、前からそうだもの。」
「あまみやー、親父殿じゃなくてお父さんだ」
はいはい、と天宮がおとなしくうなずいた。秦海親子が仕事に出掛け、天宮と深町は秦海家で、ぼんやりと池を眺めていた。側には龍之介も座っている。「よくよく考えたら、共同生活ってことかな、えりどん」
「まあ、そうかな」
「えりどん」
天宮は、先程から仕返しを考えていた。何か返しておかないと、礼儀に反するというのが、天宮たちの考え方である。
「何?」
「結婚式でスピーチとお歌を披露してもらおうか?」
「誰が?」
「あなたですわよ、わたくしの友人ですものねえー、ホホホ…」
「ちょと用事が」
そそくさと、立ち上がろうとした深町を天宮が止めた。
「逃げても無駄よ。当日まで見張りをつけてもらおうか?」
「ーあくまーな、あまみや」
「それは、えりどんのことだと思うよー」
こうして、深町は結婚式でスピーチと歌をうたうことになった。
「よけいなスピーチしたら、えりどんが税金をごまかして申告してるって税務署に言いつけてやる」
「ご勝手に」
不毛に近い会話を続ける二人であった。


作品名:天秦甘栗 用意周到2 作家名:篠義