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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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魔法使いの夜

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 朝食がすんでからぼくは散歩にでた。いつもは田んぼも山も森も緑におおわれているのに、今は全部がうす茶色の冬枯れた色に染まっている。それだけでもうちがう世界にきたような気持ちになった。
「おーい、ジュンじゃないか」
 声をかけてきたのは顔なじみのケンだ。いっしょにいるのはノブ。ふたりともぼくと同じ五年生で夏休みの間の友達だ。
「めずらしいじゃないか。冬だってのに」
 ふたりとも同じことを言った。
「うん。お父さんがさ、ぎっくり腰で入院しちゃってね」
「そうか。たいへんだな」
 またふたりとも声をそろえていった。
「でも、こっちで遊べるからいいよ。冬の田舎もいいね」
「よーし、ジュンを歓迎してと・く・べ・つ・に見せてやるよ」
 もったいつけてケンがいった。
「なに? なに?」
「まあ見てからのお楽しみさ」
 そういってノブがぼくの背中を押した。
 二人に案内されていったところは神社の裏だった。夏に遊んでいるところだ。
「なんだ、ここか」
「ちっちっち、それがちがうんだな。こっちさ」
 ノブが指さしたのは裏のがけにほられている横穴だった。なんでも戦争の時に使ったという防空壕のあとで、ゴミ捨て場につかっているところだ。もっともごみといっても境内の落ち葉を集めて入れてるだけだから別に汚いところじゃない。ただ、ぼくが知ってる限りではいつも枯れ葉で入り口はほとんどふさがっていた。でも今見ると枯れ葉はすっかりとりのぞかれている。
「このあいだ、みつけたんだ」
 ケンがいった。
「この穴は昔からあるじゃん」
「ちがうよ。この中さ。入り口があいたからためしにはいってみたんだ。そしたら…」
 ノブがにやりと笑った。
 ケンが先頭で中に入った。足もとが腐葉土でぐしゃぐしゃしてる。かびのようなにおいがしてちょっと気持ち悪い。カビ臭いにおいで鼻から口にかけて変な感じがしてきたのでぼくは口をおさえた。
 ふたりはペンライトを持っている。ケンは足もとを照らしてるけど、ノブはときどきわざと天井とか壁の方を照らしてみせる。
「うわ、げじげじ」
 ぼくはどうもこういう生き物はにがてだ。むかでもいる。ぼくが驚くたびにケンとノブは笑った。
「ずいぶん奥が深いんだね」
「ああ、おれたちも最初はびっくりしたよ」
と、ケンがいった。
「戦争の時、こんなところにかくれたんだ…。気味悪くなかったのかな」
 ぼくが独り言を言ったときだった。
「ほら、ジュン。あれだよ」
 ふたりが同時に明かりを天井に向けた。それをみて思わずぼくは声をあげた。
「わあ」
 黒いものが、それはどうも生き物らしいけど、びっしりと天井にはりついている。
「な、なに。あれ」
 驚くぼくがおかしいのか、笑いながらケンが言った。
「こうもりだよ。冬眠中だけどね」
「まさか、このへんにいるとは思わなかったよ」
 ノブはうれしそうだ。なにかいたずらを考えたり、新しいものをみつけるのがノブは好きだ。とくに虫とか変な生き物とか大好きだし。
 穴の中からでてくるとぼくはほっとした。かびくさい空気でのどがおかしい。深呼吸してきれいな空気をすいこんだ。
「どうだった?」
 ケンに聞かれたけど、ぼくが答えないうちにノブが、
「おもしろかっただろ?」
という。
「まあね」
 ぼくが気のない返事をしたものだからふたりともちょっとつまらなそうな顔をした。
「急にあんなものみせられるんだもの。びっくりしたよ。それに空気が悪いからのどがおかしくて」
「そうか。おまえ、ぜんそくだっていってたもんな」
 わすれていたのもむりはない。ぼくは田舎にいるあいだは発作がおきたことがないから、ふたりとも実感がないんだ。
 ぼくは夕べの光景を思い出した。あんな夜にコウモリが飛んだら、ほんとに魔法使いがでてくるかもしれないって。

作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ