小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

魔法使いの夜

INDEX|17ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

 日が暮れた頃、一番先にさちこさんがやってきた。
「はい、これ着て」
 ぼくの前に出したのは皮のつなぎだった。
「わたしが昔着ていたの。袖の長いのは折り曲げればいいわ」
 なにがなんだかわからないまま着てみると、少し大きいけど暖かかった。
「かっこいいじゃない」
 さちこさんはスカーフをぼくの首にまきながらいった。
「おやおや、これなら夜回りでも寒くないね」
 このときぼくにはおばあちゃんの言葉の意味がよくわからなかった。
「夜回りって?」
 するとさちこさんは目配せして小声でいった。
「犯人探しなんていったら止められるでしょ。火の用心の村周りってことにしたの」
 ぼくはなるほどとうなづいた。
 地区ごとの子供会のメンバーが交代で、週に何回か夜回りをする習慣が今でも続いているのだそうだ。もちろん消防団員の大人が必ずつきそって。ちょうど今夜はケンたちの番だった。
「おーい」
 ヤスがあわててやってきた。
「お、おれ見た。見たんだ」
「え? なにを」
「さっき、あやしいやつが別荘の入り口あたりでうろうろしてたんだ」
「それで?」
 さちこさんの目がきらっと光った。
「こっそりあとをつけたら、やっぱり川をつたって山の向こう側にいったんだ」
「そう。思った通りね」
「たしかに防空壕があったよ。でもいくつもあったからどこにかくれたのか、確かめられなかった」
「それだけわかればいいわよ。じゃあ、わたしは自分の用意をしておくわ。で、駐在所には知らせた?」
「うん」
 そうしてさちこさんは自分の携帯電話の番号をぼくに教えると、家にもどっていった。
 それからまもなくユウジとトシと、消防団員のトシのお父さんが一緒にやって来た。
「あとはケンとノブだな」
 ユウジがまちどおしそうだ。ヤスが言った。
「めずらしいじゃんか。ユウジ。いつもは夜回りなんか時代遅れだとかなんとか文句言ってるのに」
「ふうんだ」
 ユウジはわざと聞こえないふりをしている。
「ごめん。おそくなって」
 ケンが自転車でやってきた。
「おじさんから連絡があってさ。ヤスのいったとおり犯人は防空壕で盗品で生活してた。ところがさ、ちょっとのところでやつに逃げられて……。これから山狩りをするから夜回りを中止しろっていうんだ」
「そんなのないよ。おれたちが捕まえるんだ」
 みんなが口々にさけんだ。
「だけどな。相手は犯罪者だ。追いつめられたらなにをするかわからないんだぞ。子供が下手に動いたって足手まといになるだけだ」
 トシのお父さんはそう言ってぼくたちをなだめた。すると、トシのお父さんの持っている携帯電話が鳴った。
「はい。わかった。すぐいく」
 トシのお父さんは電話を切ると、トシに言った。
「トシ、消防団に警察からの要請があったそうだから父さんは行くぞ。おまえは家にもどれ」
「父ちゃん!」
「ちきしょう。おれはこのままおとなしくうちになんか帰らねえぞ」
 ユウジはぱっと走り出した。
「おい、ユウジ。無茶するな」
 ケンがどなったけどユウジはそのまま行ってしまった。ケンが追いかけようと自転車にのったとき、ノブが袋をかかえてやってきた。
「わりい、わりい。すっかりおそくなっちまった」
 せおった袋はなんだかもそもそ動いて、きいきい声がする。
「ノブ、なんだよ。それ」
 ヤスが聞いた。
「へっへ、夜だからな。こいつらにもちょっと手伝ってもらおうと思って」
「コウモリじゃないか。神社のうらのか?」
「うん」
「冬眠してたのをつかまえるなんて。とんでもないやつだ」
 ケンはあきれたふうにノブをみつめた。ノブはほかにもいろいろなものを持ってきていた。
「まだ出発しないのか? ユウジは?」
「いま、ひとりで行っちゃったよ。夜回りが中止になって」
と、トシが答えた。
「えー、なんで」
「別荘荒らしがみつかったんだ。でも逃げられたんだって」
「そうかあ。それで県警のパトカーが国道沿いに並んでたのか。じゃあ、おれたちもこうしちゃいられないね」
 ノブは楽しそうに支度をはじめた。エアーガンに玉が入っているのを点検し、ズボンの右のポケットに防犯用のカラーボールをいれた。それから釘を曲げた手作りのまきびしを空いたガシャポンのプラスチックボールの中に入れて、左のポケットにつっこんだ。
「ほれ、みんなにはこれ。やつが襲ってきたら投げる」
 紙に何かが包んである。
「なに、これ?」
「目つぶしだよ。おれんち、いろりがあるんだ。その灰を半紙にくるんだんだ」
「へえ」
 ぼくが感心すると、ノブはさらに言った。
「それだけじゃないぜ。その灰、とうがらしの粉をまぜてあるから強力だぜ」
 さすが、いたずらを考えるのが好きなノブだけある。
 通りのほうが騒がしくなった。パトカーのサイレンの音だ。ぼくたちは浮き足だった。そのとき、電話が鳴った。
「あ、さちこさん? 今パトカーが通りのほうに」
「ジュン。たいへんよ。犯人は警察の裏をかいて空き別荘にかくれていたんですって。それをみつかって、ミニバイクを盗んで逃走したの。それも車のはいれない道ばかり選んで。国道はふさがれてるからそっちのほうしか逃げ道はないわ。気をつけて。わたし今からそっちへ行くからね」
「大変だ。犯人はこっちのほうへ向かってるって」
「よーし来るなら来い」
 ノブが威勢よく言った。ヤスは心なしかふるえている。
「よ、よーし。おれもがんばる」
「こ、こわいけどがんばる」
と、いつもよりトシも強気だ。
作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ