小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

幸せな物語?

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「最初っから最後まで、とことん幸せな物語を読んでみたいよ」
 ロマンティック星からやってきた夢見る王子様がまた痒い妄言を吐いたので、私は呆れて漫画本から目を上げた。
 勝手に私の部屋に上がりこんで、勝手に私のベッドを占領して、私の本棚から私の買った小説を勝手に取り出して読みふけり、クライマックスのシーンで滂沱たる涙を流しながら、最後の一文字の余韻からようやく立ち直って、吐いた台詞がこれだ。
「イタリア映画でも見てなさいよ。最初から最後まで頭に花畑咲かせて楽しそうだから」
「画像じゃなくて文字を読みたいんだよ。解ってないね小夜ちゃん」
 解るものか。だって歩は宇宙人だもの。宇宙人の思考なんて理解できるはずがない。十八年間慣れ親しんだ日本語だって未だ全てを理解し得たわけではないのに。私が操れるのは嘘混じりの日本語と、実際現地に行ってみればクソの役にも立たない少しの英語だけなのだ。よって、ロマンティック星の夢見る王子と意思の疎通をはかる事は不可能。残念。
「読んでみたいな、誰も傷つかなくて、誰も死ななくて、みんなが幸せに笑ってる本を」
「そんなの詰まらないわ。可哀想可哀想と言いながら、人は所詮、他人の不幸が大好きなんだから。もしかしたらどこかの誰かが、最初から最後まで幸せな物語を書いたことがあったかもしれないけど、きっと日の目を見ないまま処分されたのよ。こんなん売れねえよバッカじゃねえの、はん! て出版社の人とかに一笑されて」
 そうして、この世に溢れかえるのはべったべたで可哀想なお話ばかり。恋人が病気で死んじゃうとか、恋人が交通事故で死んじゃうとか、恋人が殺されちゃうとか、とにかく最終的には恋人が死んじゃう系の映画や漫画や小説あるいは詩や歌。気持ち悪いほどの類似作品。怖いのは、それらが世間で持て囃されているということだ。どうした日本人。他人の不幸を見て己の幸せを見出さなくちゃいけないほど我々日本国民の心は荒んできているというのか。嘆かわしい。
 歩は、やれやれといった欧米人のオーバーリアクションで肩を竦めた。この、生まれも育ちもジャパニーズオンリーの生粋日本人め。いや、間違えた。彼はロマンティック星の王子だった。訂正しよう。
 とにかく奴の言動は(特に言である)私の神経を尖らせる。
「可愛くないなあ」
「あんたに可愛いだなんて思われた日には自殺するわよ」
 まったくもって、今の発言は私の本心である。
 歩という少年は、本当に変わった人間だった。彼とは母親の腹の中にいることからの付き合いだが、私は彼が癇癪を起こしている姿や、誰かに怒っている姿や、親に反抗している姿を見たことがない。こいつには私たち――つまりは人類――と同じように思春期とか、反抗期とかいうものがちゃんと存在したのだろうか? 少なくとも、同年代の子供達の中で彼と一番付き合いが深いだろう私は(非常に不本意である)、彼にそんなものがあったということは知らない。歩はいつだって、その他大勢の人間とは違った理論と尺度で生きているように見えた。違う星からやってきたのではないかというのも、私の中ではあながち冗談ではないのだ。
「つーか、あんたいつまで私の部屋にいるつもりよ。さっさと帰りなさいよ」
「美沙ちゃんが晩御飯食べていけって」
「人の母親、ちゃん付けしないでくれない?」
 母はいい年したおばさんだ。似合わない。
 そんな会話をしていると、階下から母の声が聞こえた。ごーはーんーよー、と叫んでいる。近所迷惑だからやめて欲しい。
「おれ、考えたんだけど」
 階段を降りながら、歩が言った。私の前にいるくせに立ち止まって振り向いてくるものだから、私も必然的に足を止めざるを得ない。
「何を」
「ないんだったら、作ればいいんじゃないかな」
「最初から最後まで幸せな物語、の話?」
「そう。ねえ、小夜ちゃん書いてよ」
「嫌よ。私、読む専門なの」
 いつもは私よりも背の高い歩だが、今は階段の下にいるせいで目線が下にある。さっさと行け、こっちは腹が空いてるんだと片足を振れば歩の腹の辺りに当たった。痛くしたつもりはないし、実際痛くなかったのだろう。歩は少し残念そうな顔をして、しょんぼりと階段を降り始めた。

 最初から最後まで、幸せな物語、ねぇ。

 私は少しだけ。
 もう本当に、めちゃくちゃ少しだけ、この一連の会話を心のメモに走り書きした。




小説を書いた切欠、ですか? そうですね、昔、幼馴染に書いてみたらどうかと言われたんです。あの言葉がなければ、私は今でも読む専門で、文章を書こうだなんて思わなかったと思います。
幼馴染? いろいろと理解の範疇を超えた人ですよ。ええ、彼も喜んでくれていると思います。さっそく贈ったんですよ、私の初めての本。『憎悪の館』。泣きながら読んでくれていると思います。




作品名:幸せな物語? 作家名:ラック