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藤中 桐夜
藤中 桐夜
novelistID. 17828
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トイレットボウル

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気持ち悪い、と感じたのと公共トイレに駆け込んだのは同時だった。
世界が回ってもおかしくない。いや地球が回ってる事実が不思議だとかそういうことではなくて視界がぐるりと回転しても不思議じゃない。膝をついて真っ白い陶器、トイレットボウル。胃の中からっぽにしてみたって効果ないのは知っている。ああ気持ち悪い。吐き気がする。吐きたい。今出したばかりなのにな。口を開いて出した舌から酸の味が滑り落ちる。不快だ。目の前が少しちかちか眩しい、頭が重い。ペーパーで口を拭い渦の中にさようなら。この気持ち悪さも流してくれたらいいのに。壁にもたれるようにふらふら立ち上がって携帯の短縮番号でコーリング、コーリングユー。喋るために開いた口から何か出そう。
「今暇?ちょっと、迎え、来て」
これ以上喋ったら倒れそう。声帯振動が重労働、震えた弱い声に笑える。本当に具合が悪いらしい。優しい彼は、まあ返事を確信して電話したのだけれど、途切れがちに何とか場所を伝えるとすぐ行きますよと通話切断。持つべきものは頼れる理解者です。猫背気味に歩いて大通り、外界の音が煩い色んな臭いが胃袋を刺激する。勿論悪い意味で。標識のポールに体預けて歯を食いしばる。意識していないと中身出る。目を閉じればもう少し楽になれるのだけど、彼のことは見落とすわけにはいかない。真っ黒い軽車。軽く控えめなクラクション、助手席開けて体放り込む。ドアに寄り掛かって腕に顔伏せる。もう動くのも面倒臭い。時よ止まれ、君は永遠に美しい?真っ黒な視界にぱちんと小さな光が弾ける。宇宙みたいだと幼い頃は空想して遊んだなそういえば。宇宙なんて人間が目を閉じればすぐですよロケットなんて打ち上げなくても、毎晩旅立っているらしい。全く気付かなかった。興味ないけど。それよりこのぐるぐるした気持ち悪さどうにかしてくれ胃袋から喉まで取り出し洗浄して戻してくれないか。無理なのは知っている。
「つきました」
「ん゛ー…」
手探りでドアの取っ手引いておりようとしたらいつの間にか地面とご対面。どうやったのだか。もうここで寝ようそうしよう。吐きそう。とか思ったら彼がコンクリートから引きはがして安アパート僕の部屋、偶然にもかど部屋の、ドアの前に安置してくれた。君のおかげで死体予定者は生存予定者になりましたありがとう。世界を救うヒーローは個人個人にこういう行いすべきだ相手が不特定多数で有り難みがわからない。世界は回る。地球は回る。トイレットボウルは回転にはいるだろうか。喉がつっかえている気がする。彼が車を動かし戻ってきたので引きずられるようにして玄関まで歩く。靴を脱いでついでに靴下脱いで足洗って洗面台の下のマットに濡れた足をこすりつける。白い陶器支えにしていたら手が滑り頭ぶつけた。内側からの痛みと外側からの痛み同時だなんて嫌がらせだろう。座り込みもうここでいいや安全だしと思った所でヒーロー登場。意地でも布団なんですね例外はないんですね。さすがセオリー。敷かれた布団に倒れ込み再度頭を打ち付け宇宙と再会。ちかちかする。気持ち悪さ継続中、ぐるぐる。言うべきことがあるのに口を開くと別のものが出そうで言えない。思いよ届けって無理。そろそろ本格的に頭痛がする。内側でフライパンが演奏会ひらいてるようだわけわかんね。
「冷蔵庫に桃のゼリーとみかんのゼリーとプリンとアクエリ入ってる」
「なんでお前まで…」
「キウイゼリーは貰っといた」
「みかんと桃どっちがいいですか」
「…桃」
ヒーローことSの次は何でいるのか不明な男。救援物資ですかいや自分が好きなもの買ってきただけだ。それでも結局いいタイミングだったことに変わりはない。世の中うまく回っていくものだ。視界は回らないでほしい。うち鳴らされるフライパン、小人が脳に住み着いているんだろうかわかったから存在主張したって三日後には忘れてる。この気持ち悪さも二日もすれば彼方にとんでいくだろうさようなら。今はそんな先考えても無意味、体の力が抜けない。悪寒までしてきてああもう終ったな安アパートの一室。自然すぎて気付かないほどするり入り込んだ猫、なら可愛いげがあるものの自分とたいして変わらない体格の彼、男が背中にぴたりと張り付く。あったかい寝たい。遠くのカイロより近くの人肌、君は偉大だ。わらじを懐で温めたからって昇格させたあの方がよくわかる、こりゃもう上げるしかないですよね。
「ほらお前も」
「何やってんですか」
「人間湯たんぽという名の昼寝、つかなんで一組しか布団ねぇんだよ」
最終的には前も固められて効果抜群、宇宙の旅に同行しますかそうですか。隕石にご注意。ぐるぐるくるくる、渦から急に流れをかえて何というのか、池?やっと落ち着いた。それに身をまかせていたら意識がふわふわ飛んでいくような、実際とんでいった。言葉も気持ち悪さも押し流されて沈む。ゼリー食べたい。後で食べよう。

作品名:トイレットボウル 作家名:藤中 桐夜