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新撰組 加茂

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 俺はもう、飽きたんだよ、土方はそう言って大笑いをした。いつまでたっても子供のままの総司がかわいかった。局長や試衛館時代の仲間達も総司だけは変わらぬと皆口を揃えて言った。内側から変化している総司には誰も気付きはしない。ただひとり、土方だけは、それに気付いていた。もっとも身近でいたせいかもしれないし、口とは裏腹に一番可愛がっていたのかもしれない。京都に到着して新撰組が結成されてから少しずつ変化しているように思えた。先日、土方はその変化の意味を知ることになった。









 「単刀直入に言うが、土方さんよ、あんた 沖田くんのこと、何かひっかからねぇか。」
 この一言で良順が土方の私室にやって来た理由は全て話された。困惑し返事のひとつもよこさぬ土方に良順が続けて、彼は元来外科医であるので詳しいことまでは解りかねるが、おそらく沖田は胸の病ではあるまいか、と付け足した。
「医師! それを総司には・・・」
「まだだ。だが、早いうちに言おうと思っているが、」
 これは厄介な病気で決定的な治療薬がないので、ただ滋養のあるものを食べさせて静養させるしか方法がない。
「さっき 沖田くんと飯を食いに行ったがどうもいけねぇなあ。あれじゃ食が細すぎて。ちっとも食いやがらねぇ。」
 総司はもともとから食が細く、隊士たちが精力がつくと言って食べている獣鍋などは匂いがするだけで逃げてしまうほどで滋養があると言っても嫌いなものは、きっと食わない。土方は松本から逃げ回る総司を想像して少し顔が崩れた。しかし、すぐに気を取り直し、「なぜ 局長ではなく、私に?」と尋ねた。「なあに、こういう話は冷静な副長にするのが筋だと思ったんでね、それに、正直な大将よりもあんたのほうが何かと持ち札も多い筈だ。」
 そこで良順は意味深な笑いを土方に向けた。表よりも裏の世界に情報を持つ土方のほうがなにかと都合がいい。もし、松本が局長に第一に告げていたら事は公になり総司は江戸の姉の元へ送り返されて一見落着したであろう。しかし、それは隊士の士気を下げ下手をすれば志士たちにみくび   見縊られることになる。一番隊長が抜けることはそれ程に重要な意味を持つのだ。だから、松本は局長ではなく、その辺りの事情をよく飲み込んだ土方に声をかけて来たのだった。土方は現在の総司の生活をあまり変化させずに、なんとか総司を助けられないかどうかと尋ねたが今のような生活が続くなら十中八九助からぬときっぱり言い切られた。
「では、どうすれば・・・・」
「そうだな。まず、休養を十分させること。それから食生活をもう少し改善させることだな。しかし、これだけやったからといって助かるとは言わないが。」
 きっちりと閉じられた障子の内では土方と松本良順の密談がなされ、何かが取り決められようとしていた。


 松本と土方はまず、総司に滋養のつく物を食べさせようと、こんな手の込んだ芝居をうった。ただ、料亭などへ呼ぶといぶかしがると思ったからである。
「なあ 総司。寒くはないか?」
 横を歩く総司を心配して土方が尋ねた。総司はカラカラと笑い『いつまでも子供扱いしないでください。』と彼に向かってわざと口をとがらせて不服そうに言った。それから少し間を置いてこう言った。
「京都の冬は寒すぎて私には適さないけど、でも春は好きですよ。明るくて何もかもが輝いているように見えるから。なんだか私まで嬉しくなって・・・」
「・・・・春か・・そうだな。一番良い季節だな。だが、俺にはこの冬のほうが似合っているな。おまえとは正反対に。」
 最後のほうは自分自身に語りかけるように消え入りそうな声になった。寒さに身を斬られながらも心の芯から一本の筋が通るような冬が今、土方の身辺の状況であった。ふいに総司が激しく咳込んでかがんだ。しばらく呼吸が収まるまで黙って待っていたが 総司が『すいません。風邪気味なんです。』と言った後 『早く悪い風邪は直せよ。』と言って土方が前を歩き出した。知ってか知らずか、総司には判断しかねたが良いほうに取ることにした。
「直るなら直してみせます。」
すでに前方を歩く土方には聞こえぬような声で彼の背中に向けて総司は返事を返しゆっくりと後を追い駆けた。
作品名:新撰組 加茂 作家名:篠義