小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
伊藤ヘルツ
伊藤ヘルツ
novelistID. 22701
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

退屈な天使たち

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

 キリキリと頭が締め付けられる。屈強のレスラーに、両の拳でこめかみを圧迫されている様な気分だ。偏頭痛は早回しの観測映像のように急速に上昇し、やがて頂点に達した。そして私は、四方のビルディングに反響するほどの大声で叫び出した。それは、胎児が初めてこの世界を体感した時の悲運の声に似ていた。

 5

 私は鉄柵の前に、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。右脚に新聞紙が絡み付いていたので拾い上げたが、紙面は茶色く変色し何が書いてあるかはわからなかった。多分世界中の出来事が、このちっぽけな紙切れに刻まれているのだろう。しかしそれ等は、当事者とは無関係に時と共に忘れられ風化してしまう。風化を見届けている当事者自身は、まるで慢性健忘症患者ばかり診察する医師になったような気分だろう。茶色い紙切れからは、そういった諦めにも似たやるせなさが伝わってきた。
 我に返り周囲を見回すと、例の二人の少女はいなくなっていた。老朽化したビルの屋上はいつの間にか静寂に包まれていたが、遠くに聞こえるボイラーの音だけは相変わらずだった。
 彼女達は一体何者だったのだろうか? 今度学校へ行ったら、一学年から三学年まで徹底的に捜索してみようと私は思った。意外と同じクラスなのかもしれない。そう思うと、微かに笑みがこぼれた。しかし彼女たちとは、例え百年間同じ学校に通ったとしても気が合いそうにもなかった。
 ふと背後でカラカラと音がしたので振り向いてみると、少女が食べ残したアイスクリームのコーンが転がっていた。私はそれを拾い上げ、砂埃が付着していないことを確認し恐る恐るかじってみた。甘いクリームの味がした。そして風に乗り損ない私に捕らえられたコーンには、私の小さな歯形が半円状についた。私はそれを見て型抜きされ損なったクッキーを連想し、また笑みをこぼした。
 しばらくその甘美な味を堪能していると、雨が降ってきた。出かける前に見た天気予報は曇りだったので、気象予報庁の言うことは金輪際信じない事に決めた。間違いだらけの情報に翻弄されるのはもう懲り懲りだし、物事の本質を探る頭脳ゲームにも飽きてしまった。
 砂混じりの地面には直径五ミリほどの黒い染みが付き始めていた。私は女神のように両手を広げながら空を仰ぎ見て、頬や瞼に当たる冷たい雫を体感した。そして夏の日に嗅いだ校庭の匂いを思い出しながら、ふやけかけているコーンを再びかじった。
 私は一瞬、この屋上がプールに変貌するまで斑模様の地面を見届けようかと考えたが、直ぐさまその着想を振り払いゆっくりと立ち上がった。
 既に制服は水を吸って、砂埃がこびり付いていた。しかし私は、可能な限り丁寧にそれを祓った。そして、額に張り付いた前髪を横に分け、勢いよく鉄柵を飛び越えた。
作品名:退屈な天使たち 作家名:伊藤ヘルツ