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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ダークネス-紅-

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 しかし、ここで動かなければ殺される。
 呉葉は痙攣する紅葉を抱きかかえ、強引に走らせて近くの部屋に逃げ込んだ。
 そこもすでに火に包まれ部屋は燃え崩れ、後ろからはファイアードッグがゆっくりと威嚇するように追ってくる。
「絶対、絶対……生き延びて復讐してやる!」
 呉葉は叫び、紅葉を抱きかかえながら割れた窓から地面に飛び降りた。
 落ちて来るように迫る地面。
 必死に呉葉は紅葉を抱き庇いながら地面に着地し、激突の衝撃と共に稲妻が落ちたような激痛が足を襲った。
「ぐッ……」
 呉葉は地面に倒れながらも紅葉を庇った。その代償は右足の骨折だったが、この程度で済んだのは奇跡だったかもしれない。
 しかし、奇跡は儚くも終わりを迎えようとしていた。
 意識のない紅葉を抱きかかえた呉葉の耳に届いた唸り声。
 背後から迫る殺気。
 呉葉が振り返ると、そこにはファイアードッグたちが群を成し、姉妹との距離を少しずつ狭めていた。
 歯を食いしばる呉葉は折れた足を強引に動かし、激痛に耐えながら紅葉を抱えて引きずった。
 ファイアードッグとの距離は三メートルを切っていた。
 追い詰められた姉妹の行く手には崖があり、その下には大きな川が流れていた。
 家の真横を流れる川での家族との温かい思い出。
 しかし、今そこに流れる川は冬の凍てつく寒さを孕んでいる。
 呉葉の眼に映る炎の山。
 火の粉を上げる家が激しく燃え散ろうしていた。
 あの家での思い出はすべて灰へと変わる。
 意識のない紅葉を呉葉は強く抱いた。
 ファイアードッグが喉を鳴らして襲い来る。
 そして、姉妹は凍てつく川へと身を投じたのだった。
 水しぶきを上げて姉妹を呑み込んだ川の水が、抉るように冷たく躰を刺す。
 ――凍える水の中。
 呉葉は紅葉を強く抱きしめて、ただ生きたいと願った。