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フレンドボーイ42
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偽善者賛歌08「蜜蜂」

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 明石は酒を飲まない。人付き合いで飲むときもだいぶ控えめである。飲めないわけではない。飲もうと思えばそれこそ、ジョッキを七杯あけることなど造作もない。しかし酔わないから、素面になって、いったいどうしてまた酔えないんだろうか、と疑問に思ってしまうのだ。
 心地よい世界になどいけない。麻酔をどれだけ打っても効かないから手術が痛くて仕方がない。麻酔というのは結局麻薬だから、おそらく麻薬を打っても効かないということである。煙草も吸ってもむせるだけだ。心地よい世界からかけ離れた人間で、「ワールドイズマイン」よりも「悪徳のジャッジメント」を好んで聴く。「メルト」よりも「ヴェノマニア公の狂気」の方が恋愛感にあい、そういう人間だから「トエト」を好きになれない。はっきりしないものへの美など感じられず日本人らしさを失って破滅を詠う。
 破滅を詠うが、破滅した人間とは距離を置く。かつて彼は蕨屋のアパートに住んでいた時期がある。
 「行くんですか」
 ゴーストライターの男による出ていくところを見られた。
 「この町にはもう居られない」
 「お元気で。…なにもないですけど、今ちょうど紅茶豆乳買い足してきたんで、2、3本でもどうですか」
 「悪い」
 「今後どうされるつもりなんですか」
 「十和田に移るところだ。住所はこんなところだ(紙に書いて渡す)。来てもなにも出せないと思うが」
 「今度時間があったら遊びに行きますね」
 
 それっきり、会っていない。はずだ。