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篠原 風花

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小春日和というに、相応しい午後だった。先日までの寒波が嘘のように暖かい日差しが降り注いでいる。日向ぼっこには、最適だろうと、庭にレジャーシートを持ち出して、ごろりと転がった。
「ビタミンEの補給には、よいことだわ。」
 同居人は、窓から顔を出して、大笑いして、「でも、それだけではダメ。」 と、ホットレモンを作って配達してくれた。
「ビタミンCも補給すべき。」
「酸っぱいのは、苦手なんだけど。」
「心配しなくても、蜂蜜たっぷりで、ミネラルなどの栄養も加味してございましてよ。」
 などと、からかうように言って、それを渡すと、家に戻っていった。部屋の掃除をするという。いつもは、こちら任せにしているのに、たまには自発的にやりたくなったらしい。
 適当な雑誌を読みながらの日向ぼっこは、快適だった。ちょうど、仕事の締め切りが終わった休みなので、すっぱりと仕事のことが頭から抜け落ちているというのもいい。しばらくぶりに、太陽を浴びているので、身体に、そのエネルギーが染み渡っていくような感じがする。身体が温まってくると、うとうとと眠りに引き込まれる。寒くなる時間になったら、起こしてくれるだろうと、安心して目を閉じた。




 仕事のノルマをクリアーして、なんだか気分的には楽しい。だが、無趣味な独り者というのは、休日に何をしていいのか、迷う。掃除洗濯雑用なんてものは、狭い寮の部屋と、独り者の身分からして、二時間もあれば終わってしまう呆気ないものだ。
 さて、午後から暇だ。
 とりあえず、昼飯を寮の食堂で食べてしまうと、何もすることがないということになる。テレビで時間潰しするというのも、この快晴の日に悲しいこと、この上もない。寮住まいの同僚たちは、デートに出かけたのか留守だ。散歩でもするか、と、財布だけ手にして出たものの、買う物がない。日用品は、揃っているし、読みたい雑誌なんてものも、今のところはない。
 ふと、目にした雑誌は、後輩が読みたがっていたものだ。自分では読みたくもない専門誌なので、自分には用途がない代物だ。ふんっ、と、雑誌を元に戻して、普段は見ない専門雑誌の売り場を、ぶらぶらと歩いてみる。で、やっぱり、ガーデニングの雑誌に、目を留める。これも、後輩が、「見るだけで楽しい。」 と、職場で眺めていたものだ。それの最新号、本日発売とある。
・・・これを土産にして、晩飯を食べさせてもらうっていうのは、どうだろう? ・・・
 内心で、そんなことを考えつつ、それを手にする。パラパラとページを流すと、春の植物の準備が書いてある。後輩は、なぜだか、園芸を好むようになった。実家とも呼ぶべき場所で、静養している時に、リハビリになるだろうと、朝顔やひまわりという花の世話をしていた。それまで、そんなことを、ちっとも知らなかった後輩は、育っていく植物を世話することが楽しいと知ったからだ。今でも、度々に実家に戻って、やはり植物の世話をしている。最近では、野菜も育てているらしく、この間は、サツマイモを蒸して、職場へ持ってきた。
「なんだか、自分が育てたものを食べるっていうのが楽しいです。」
 そう言って、ニコニコと、笑った。
「それなら、夏には枝豆を作ってくれよ。」
「わかりました。挑戦してみます。」
 うまくいかない場合もありますから、期待はしないでください、と、後輩は、一応、釘なんぞ差した。
「ばか、それなら、買ってくればいいんだ。俺に、味なんてわかんないんだからな。」
「どうせ、バレるでしょう。」
「おまえ、自分でバラすんだよ、絶対に。」
「はははは・・・そうかもしれませんね。」
 仕事の上では、ものすごい知識と技術を発揮するくせに、それ以外は世間知らずな後輩である。嘘なんぞついたところで、バレるのは時間の問題だ。それに、嘘をつくことが嫌いだ。いや、嫌いというよりも、嘘をつかない、と、自分で戒めているが正解だろうか。後輩は、とんでもない嘘をついたことがある。そして、それを、「実は嘘でした。ごめんなさい。」 と、謝る時間を失った。絶対に、謝れなくなったのだ。それ以来、二度と、そんなことにはなりたくない、と、それから、嘘はつかなくなった。別に、普段から嘘つきなわけではない。本当に、相手のことを考えて、考え抜いて出した結論が、「嘘をつく」だったから、そうしたのだが、間が悪かった。
・・・まあ、いいか。とりあえず届けてやろう。・・・・
 その雑誌を、レジで精算して、店を出た。ぶらぶらと歩いていける距離だから、ちょうど散歩がてらにはよい。いい天気だというのも、いい。


 玄関のほうへ顔を出したら、庭に、何かが落ちているのが、目に飛び込んだ。この家に辿りつく、少し前から風が強くなっている。ハタハタと、何かが靡いているので、庭のほうへ足を進めたら、なんとも暢気なことに、後輩が、そこで昼寝をしていた。風が出てきて、寒くなったのか、丸くなっている。
「おまえなぁー。」
 寒いなら、起きて家に入れよ、と、脱力する。手元には、先ほど、書店で目にした専門誌がある。これを読んでいて、そのまんま沈没したらしい。
「なんで、そうバカなんだよ、おまえは。」
 とりあえず、具合が悪くないのか、額に手をやる。慣れとは怖ろしいもので、こいつが、横になっていると、とりあえず体調を確認してしまう。慌てている時は、いきり脈拍の確認なんてことになっていたりする。
「・・・う・・・」
「『う』でも『あ』でもねぇっっ、起きろっっ。」
 ペチンと、額を軽く叩いたら、びっくりして飛び起きた。しかし、急激な動作なんてものをすると、貧血を起こすという厄介なヤツなので、ふらふらと、また横に倒れこむ。もそりと動いて、顔だけが上を向いた。
「・・・いらっしゃい・・橘さん・・・」
「おう。風邪でもひきたいのか? 若旦那。」
「・・いや・・日向ぼっこ・・・」
 そこへ、びゅっと音がするほどの風が吹いて、ひらひらと冷たいものが顔に落ちてきた。
「・・あれ?・・・」
 ごしごしと眼を擦り、厄介なヤツは、今度は慎重に身体を起こした。きらきらと光るようなものが、青空に舞っている。
「ダイヤモンドダスト? 」
「バカ。これは、風花だ。どっかの山の雪が、風で飛ばされてんだよ。おまえ、それ、麟には絶対に言うなよ。絶対に説教されるぞ。」
 後輩の一人は、物理の専門で、おそらく、この惚けた回答を聞いたら、眉を吊り上げて説教するだろう。しかし、別段、それについての意見はないらしい。上を見上げて、「へぇー」 という口をした。
「でも、近くに山なんてありましたっけ? 」
「別に近くなくてもいいんだよ。どっかで降ってる雪が、たまたま飛来してんだ。」
「ふーん、珍しい気象現象だなあ。」
「いや、たまにあるぞ。こういうとこでは珍しいかもしんないけど、山の近くなら、吹き降ろしの風で・・・」
 そこまで言いかけたら、目の前の若旦那の肩に、コートがかけられた。
「詳しい説明は、中でいかが? 」
 若旦那の同居人が、そこには立っていて、「風邪でもひかせる気か」 という顔をして笑っていた。
こちらには睨んで、だが、一瞬で、優しい顔になって、若旦那の側に両膝をついた。
「そろそろ風が冷たいわ。」
「うん、寒くなってきた。」
作品名:篠原 風花 作家名:篠義