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あなたが笑顔でいられるように

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 こつこつと冬の風が吹く街路樹を中尾君と並んで歩きながら、あたしは一体いつこの思いを口に出せばいいのか考えあぐねていた。この思いを口にすることはとても容易で、それでいて簡単。だけれども、本当のことを伝えることは難易で、それでいて複雑。
 あたしにとって、そうしてこの思いは結局いつもの曲がり角になると口から出ずに終わってしまうのだ。
 なんと情けない。


 あたしは、私らしく歩けているだろうか。
 落ち葉一つ落ちていない綺麗に掃除された街路樹のタイルは、いびつに四角でところどころ隙間があって、そこに泥が詰まってこびりついていた。
 こんなものだ。

 あたしの感情なんてこんなものだ、と、あたしはからからに乾いた空を見上げる。隣に並ぶ中尾君がつられて空を見上げた。そうしてそれから、雲ひとつないまっさらな空を眺めあげながらぽつり呟く。
 その声は優しく柔らかく心地よく低く、あたしの中で響く。

「雲、ないな」
「そうだね」

 ああ、だから、そう、だからあたしは眩暈がするほど思うのだ。
 まだ中尾君は気付かないのだろうか。あたしの黒いハイソックスが片方ずり落ちて、ひどく不格好になっていた。二つに結んだ髪の毛が風に流れて、視界を遮る。
 中尾君が私の手に触れた。
 そこからじわりと熱がうまれる。
 あたしはハッとするように息をする。
 涙が滲むほどの情熱でもってして、あたしはその手を受け入れる。手を緩く繋ぎ、指と指を少しだけ絡める。だけど、だけどいつか、ああ。
 ああ――。

「今日、学校半日休んでどうしたの?」

 中尾君がやにわに問うてきて、あたしは俯く。

「ごめん、言いたくなかったらいいや」
「ううん」

 違うよ、と続けて、あたしは言葉に迷う。
 あの電車のホームが、紅葉がフラッシュバックする。ざっと視界を覆った真っ赤な紅葉が覆い隠したのなんだった? あの靴磨きのにおいを漂わせた少年? それとも、あたしが心の奥深くに、底の底のほうに置いてしまった感傷?
 何も残らないホームの内側で一人、大人になることを選んだあたしの思い。
 歪み、汚れ、擦り切れはてて、出した答え。

「……中尾、君、あの、ね」

 言葉にもつれながら隣の中尾君を見上げる。
 私よりもずっと身長の高い彼は不思議そうな顔であたしを見た。

 ――人が正しく何か考えることができたら、その瞬間から、人は大人になるんだよ!

 ならばこれは正しい答え?

 あたしは自分の目から涙が溢れるのがわかった。
「別れよう」

 愛しいほどに悲しいなんて、なんて皮肉!
 そうして泣くだなんてとんだエゴ!それでも!それでも!

 絡んだ指が、ほどけた。