小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

すとーかー!シリーズ

INDEX|3ページ/3ページ|

前のページ
 

すとーかーとこすぷれ!


「鬼畜眼鏡とはまさしくこのことね…!」

 ぶっ飛ばしてやろうかこのアマ。



*********

 事の始まりはそう、文化祭の出し物の話し合いだった。ほとんどの奴はこれが初めての文化祭。そうともなれば、自然と気合が入ってしまうというもの。しかもこのクラスはほとんどの連中がテンション高い上に悪ノリしやすい奴らばかりなのだ。俺の嫌な予感通り、出し物は“コスプレ喫茶”という定番かつ悪趣味極まりないものだった。

 確かにコスプレ喫茶というものは良く聞くが現実でそれをやってる所なんか正直見たことない、衣装に金が掛かる、などの少数派の反対意見は悉く却下された。なんでも、クラスメイトにある伝があるらしく、通常1人4000円のコスプレレンタル料を800円に出来るらしい。まさかの8割引きだ。高校生の自分たちでも十分払えるということで皆のやる気は鰻上り、誰が何のコスプレを担当するかまで決め、本番の今日に至るのだ。

 俺は良く分からないアニメキャラクターなどは避け、無難に軍服にした。文化祭実行委員である雨宮がこれを見て舌打ちし、一瞬の後に笑顔になったことが気がかりだったが、斉藤で身についたスルースキルで見ない振りをしたのだ。しかし、これが間違いだった。

 そもそも雨宮は女子の中でも特に斉藤を応援しており、常に斉藤の味方だ。俺のことも慣れ慣れしくトモヤと呼んでくる。それにより俺は彼女に若干の苦手意識を持っていたのだが、今回のことではっきり分かった。

 このアマ、完全に俺らで遊んでやがる。

「えぇ?何が不満?斉藤とお揃い、しかもトモヤは眼鏡装着。これはもう勤務中は無表情な冷酷上官と忠実な部下!でも夜は妖しく微笑む鬼畜上官とそれに翻弄される調教された従順な部下…!ああっ!何て甘美な世界なのー!しかもその黒革手袋がエロさを際立たせてるんだから!もう!」

「……お前頭大丈夫か。」

 もうコイツ駄目だ。日本語のはずなのにさっぱり理解出来ない。いや耳が聞くことを拒絶している。

「ったく、ノリ悪いなぁ。ほら、どう斉藤?鬼畜眼鏡使用のトモヤは?勃つ?」

「おい雨宮。」

 苦々しい俺の表情にもそれ鬼畜っぽい!と盛り上がるだけの雨宮の背後に立つ斉藤は、俺の軍服姿をみたときから時が止まっているかのように一言も喋らない。俺と同じ軍服(装飾が若干違うが)を着ている斉藤は、ガタイの良さも相まってか、普通に似合っていた。黙っていれば、まあ、見れないこともない。しかし良い加減、じっと見られ続けるのも辛くなってきた。

「……斉藤?」

「そこは偉そうに『斉藤、何をモタモタしている。この下衆が。』でしょうが!」

「雨宮はとりあえず病院行け!精神科行ってこい!」

 色々と指示を出してくる雨宮に言い返していると、それまで黙ってみつめて来るだけの斉藤が突然動き出した。雨宮をそっと押し退け、俺の前に跪く。

「お、おい斉藤…?」

 真顔の斉藤は何と云うか、迫力があるのだ。だから動けなかった、といえば格好悪いがこの時の俺はまさしく斉藤に圧され動けずにいた。

「───トモヤ様。」

「え……は?」

 斉藤は硬直した俺の左手をすっと取り、黒革手袋越しに口付けを落とした。きゃあ!と黄色い悲鳴が起こり、男子はいつもの如くからかいの口笛を吹いた。

「───貴方の為ならこの命、いつでも投げ捨ててみせましょう。」

 斉藤はこちらを見上げ、微笑んだ。

「我が主に、忠誠を。」


───パシャッ。


「いやはや、素晴らしかったよ斉藤!さすがね!」

 一眼レフ片手に満開の笑顔をみせた雨宮は、この写真欲しい人ー!とクラスメイトを振り返った。あちこちから手があがり、一気に疲れた気分になってしまった。言って置くが、まだ本番前だ。始まってすらいないのに、この疲れ様。

「あ、あああのトモヤくんっ…!」

 椅子に座りぐたっとしていたら、上から声がかかった。そうだ、斉藤の存在をすっかり忘れていた。斉藤は既にいつもの姿に戻っておりせっかくの軍服姿も台無しになっている。厳つい軍服でその喋り方は気持ち悪すぎて正直ホラーだ。

「……何。」

「トモヤくん、すごくかっこいいよ…!もう本当、このまま掘ってほ──。」

「はい黙ろうか斉藤。」

 安心の変態具合に涙が出そうだ。俺もう、このままサボってしまいたい。斉藤の視線から逃れるように窓の外を眺めていると、でもね、と斉藤が口を開いた。

「僕は……トモヤ君の為なら命捨てても良いって、本当に思ってるよ。」

 その言葉に何故かイラっと来た俺は、じゃあ、と考えもせず言葉を発した。

「お前は俺が『死ね』って云ったら、本当に死ねるっていうのか?」

「───君が本当に、それを、望むなら。」

「っ───!」

 初めて、斉藤を心の底から恐ろしいと思った。冗談の気もなくそんなことをほざくなんて、正気の沙汰じゃない。そうだろう?

「……ばっかじゃねえの。」

 今の俺には、この言葉しか云うことが出来なかった。


fin.
作品名:すとーかー!シリーズ 作家名:kei