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桜田みりや
桜田みりや
novelistID. 13559
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大きな女神と小さな旅人

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山岳の山間に村があった。
村というには大きく、街というには小さいそんな集落だった。
村はとにかく厳しい山々に囲まれていたために、他の街との連絡は乏しかった。
そんな土地で村は、独自の文化・独自の習慣・独自の発展を遂げてきた。

ある日、旅人が村にやってきた。
一番近くの村ですら何千キロも離れているこの村に、旅人がやってきた。
人々は彼を歓迎した。
もともと娯楽も乏しい村に、外からの使者は格好の娯楽だった。旅人ともなると、彼の見たもの・聞いたものは格段に村人を楽しませる。
旅人は言った、
「他の村むらでは歓迎されません。私のようなものはお金も地位も身分もない。宿ですら門前払いされることもある。こんな歓迎は初めてです。何かお礼がしたい」と。
その旅人の申し出を受け入れて、村長は村にとどまるように頼んだ。旅人も快く受け入れた。

連日、彼の元には村人たちがやってきて、話をせがんだ。
旅人だった男の話は面白かった。村にあるどんな本よりも奇抜でリアリティに溢れていた。
3日、15日、1ヶ月…月日はたちまち過ぎていった。
もう旅人は旅人とは言えず、村の男になってしまいそうだった。

半年ほど経って、男は皆を家に招いた。
なにか話があるらしい。村を出て行くのではないかと、村人達は不安だった。誰も彼も男の家に急いだ。村人のほとんどが男の家を取り囲んだ。様々なうわさが飛び交って、集まった者はパニックになっていた。
男の家のドアが開く。
それまでうわさをリレーしていた村人たちは嘘のように口を閉じた。
鳥の声しか聞こえない中、男は皆に座るよう進めた。今から話がはじまるようだ。
「待ってくれ!」
若いクシャクシャ頭の青年が叫んだ。
「出て行く話しかどうかを先に聞かせてくれ!」
青年につられて村人もそれを主張した。皆はそれが不安で集まったのだ。男の話という娯楽がなくなるのが嫌なのだ。
「私が出て行くかどうかは皆さんが決めること。私はしがない旅人ですから」
男は静かにそう言った。
それだけで、唐突に話ははじまった。

「今から話すことは僕の…いや、私のことです。私自信の事です。」

「私は生まれたときから旅人というわけではなく、ある大きな街に住んでいました。
父はおらず、母がひとりで私を育てていました。聞くところによると、父は借金と私を母に押し付け、別の女性と出て行ったようです。そんなごく一般的に不幸な家で私は育ちました。
母は馬鹿の一つ覚えのように働いていました。私も10の頃にはお金のために働いていました。
15の頃に、やっと借金を返し終わりました。
私は母に母の人生を豊かに送ってもらおうと、その日の給料と貯金を母に差し出しました。
『お母さん、これで、このお金でお母さんの好きなものを買って。僕はお母さんに幸せになってほしいけど、どうしていいかわからないからこんなことしかできないんだ。』
母は迷わずそのお金を使って私を学校に入れました。私は当時、読み書きはもちろん、簡単な計算もできませんでしたから、親としては当然それを学ばせたかったのでしょう。
私は母の幸せのために、一生懸命学びました。
私が学校で勉強している間、母は働いていました。
そのまま私は18になりました。
いつものように学校から帰ると、家の中は真っ赤でした。
母が…夕飯を作りながら待っているはずの母はいませんでした。いたのは見知らぬ男でした。
男は、私と目が合うと襲い掛かってきましたが、若い力にものを言わせてその男を押さえつけました。
『母さんは! 母さんはどこだ!!』
負けを悟ったそいつは弱弱しくもみじめに話した。母に金をせびりにきて、断られたから母を…母を殺したと!
その男は私の父親のように思えたが、そんなはずはない。私には父親と呼べるような人はいない。
台所にいるという母を探しに走りました。台所の冷蔵庫の中に、母は小さく押し込まれていました。
私は泣きました。
あんなに悲しかったことはありません。私は唯一の肉親を失い、幸せにしたいと願った夢さえかなわなかった。
神がいるなら息の根を止めてやりたいくらい呪いました。」
ここまで聞いて村人は思い直した。今日の男の話はいつもと同じで、自分達は娯楽としてそれを聞けばいいと。
「何もかもなくした私は警察に追われることになりました。
母を殺した男が、こともあろうに私が母を殺したと戯言を言ったのです。悔しいことに未だに警察は私を追いかけています。大人と子どもでは、いつの時代も大人は大人の言うことしか信じない。
私は逃げることしかできなかった。潔白は証明できなかった。何もかも失った……。
逃げに逃げ、警察と世間が私を忘れた頃には旅人になっていました。
これが私の人生です。」
拍手が起きた。
何への拍手かはわからない。ただただ男の過去への敬意だった。
村人は誰も男を人殺しだとは考えていなかった。男が虫も殺せない人だと、村人はそう信じていた。
男は手を上げた。それは注目を集めるための癖だった。
「今までの話を踏まえて、聞いてほしい話がもうひとつあります」

「これは9ヶ月前の出来事です。
運命を呪っていた私は、険しい山岳に迷い込みました。
そのころ私は生きる上で大切なものを探していました。母以上に愛せる人・愛せるものを探していました。
どこか私の知らない場所にあるような気がして…ずっとそれを探していました。
私は今、見つけたような気がします。この村は私を受け入れ、愛してくれました。本当にありがとう。
…話がそれましたね。
とにかく山岳から出られない日々が続きました。
持っていた食料も底を尽きはじめ、食べれそうなものを探すもあいにくの冬で食べるものはありませんでした。
戻ることも進むこともできない状態でした。迷子でしたから。
それでもあの青く広がる空を目指して歩き続けました。歩けども歩けども冬の寂しい木々ばかり……私は死を覚悟しました。母と同じく、幸せを知る前にこの世からいなくなると――。
いつの間にか倒れて気を失っていたようです。
気が付いて立ち上がるとそこは見覚えのない場所でした。霧がかった、花の咲いている…桃源郷のような場所。
気を失う前まで、カラカラの空気の中を灰色の樹木を見ながら進んでいたはず。
死んだ。
そう考えるのは当然の成り行きでしょう。
死んでも腹が減るんだとぼんやり考えているとむこうから、声が聞こえていました。
それは歌でした。今でもしっかり覚えていますが、再現はできません。女性のような優しい穏やかな声で奏でる多重層…その歌はあまりに美しすぎて人の声では歌えません。
とにかくその歌を耳で探りながら進みました。他にすることもなかったので。
何かにぶつかって、足を止めた。
とても…とても大きなもの。一体何なのか?
『なぜ運命に逆らったのか?』
上から声がする。歌っていた声だった。
見上げると霧は少し晴れていた。そこにいたのは大きな大きな女性だった。ぶつかったものは膝だ。私は彼女の膝元に立っている。
これは驚くべきことだ。
巨人が存在するなんて聞いたことがない。そもそも現実的ではない。
『なぜ運命に逆らったのか?』
彼女は私に聞いてくる。動揺を抑えつつ、返事をする、