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みっふー♪
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novelistID. 21864
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花を送ろう、君を迎えに

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春影



踏み固められた道脇に咲く雑草の影を長く伸ばして差す西日も、大方山端に落ちかけていた。
「……」
夕陽に手をかざして少年はため息をついた。
――まったく、あの人の放浪癖にも困ったもんだ、ちょっと遠出するたびコレじゃどっちが保護者かわかりゃしねぇ、毛先の撥ねた頭を掻いて日暮の里道をチンタラ小走りに行く。
板葺きの作業小屋を過ぎた前方、道から逸れた土手下に連なる一面の詰草畑が見えた。
「――、」
吐き出した息と一緒に、少年は後ろ頭をわしゃわしゃ掻いた。
石組の段差を飛び降りて畑に入る。八重咲の花を散らした緑の絨毯に埋もれて、白い着物が見え隠れしていた。
(……。)
――寝てんのかよ、やれやれ本当に世話の焼ける、畑に一歩を踏み出して、
「――先生、」
声を掛けようとして頭の底がぐらりと傾ぐ。ふらつく足を草に踏み締め、少年は眩暈に耐えた。
(――……、)
――叔父上!
霞みがかった春風に満開の詰草畑、四つ葉を見つけてはしゃぐ白い着物の少年が走り寄った男の前にそれを差し出す。草上に立つ男の背が小さく俯いた。差し出された手ではなく、長い髪を揺らして見上げた頬に触れ、崩れ落ちた二つの影が一つに重なる。
――叔父上……。
握り締めた少年の指がしどけなく緩む。取り落した四つ葉の代わりに、そうしてただ男の肩に縋り付く。
(……。)
目の前の出来事なのに、突っ立ったまま自分には見ていることしかできない。歯痒いとか悔しいとか、そういう種類のものとは違う、掻き毟られる胸を満たしていくのは透き通った色彩のない感情だけだ。
「――……、」
拳を握ったまま少年は頭を振った。翳んだ意識も、体の縛りは解けていた。
草群れに足を進めて彼の姿を確かめる。白い花に囲まれて横たわる、薄く開いた唇が静かな呼吸に上下する。――やはり眠っているだけだ、知らず強張っていた少年の肩から力が抜けた。
「……」
真上から覗き込む気配に気付いてか、睫毛の先の涙を払って彼の瞼がゆるりと動いた。
「――何泣いてんすか、」
目を開けた彼を見据え、ぶっきらぼうに少年は発した。
「泣いてましたか?」
ぼんやりと彼が答えた。
「泣いてんじゃん、」
少年は跪き、赤く染まった目元のそれに何気なく伸ばしかけた手を引っ込めた。触れちゃいけない、気安くは触れられない、
「?」
首を傾げた彼が自分の袖に目元を拭った。
「……おかしいですね、」
呆けている少年を見上げ、彼が涼しげに笑う。
「とても楽しい夢を見ていた気がするのに」
「……」
少年は横を向いて息を吐いた。
「また例のオジさんの夢スか、」
「――、」
長い髪を揺らして彼の肩がくすりと揺れた。
「さぁ、忘れてしまいました」
「……つーかさ、」
身を起こした彼の隣で、手近の草を適当に引き抜きながら少年は言った。
「やめて欲しーんだよね、そやってアンタが悲しいカオしてっと、俺がイジメたみてーで落ちんじゃん、」
「……」
彼がじっと少年を見た。少年は余計に辺りの草をむしった。
「君は優しいですね」
微笑を湛えて彼が言った。
「――俺が?」
じょーだんだろ、手を止めた少年は迷わず鼻で笑った。
「俺が優しきゃ世の中ホトケさんだらけだぜ、」
――ま、実際河原にゃゴロゴロしてっけどよ、
「……」
わざとのように悪擦れてみせる少年を、彼は黙って見詰めていた。少年は手元に積み上がった草束を放り投げた。
「だから! ンな顔すんなって! ……まじ俺がイジメたみてーになってんじゃん、」
ぼやく少年に、思いのほかきっぱりと、だが静かな声に彼が言った。
「そうじゃありません」
「?」
少年は目を上げて彼を見た。揺らがぬ視線をふっと緩めて彼が返した。
「ただの自己嫌悪ですから」
「……?」
少年は首を傾げた。ふうっと短い息を吐き、自分に言い聞かすように彼は続けた。
「君みたいな子供にあんな笑い方させて、私は大人失格だって」
「は?」
少年は眉を寄せた。
「俺は笑いたきゃ笑うし、喚きたきゃ勝手に喚くさ、」
――アンタに許可取るコトじゃねーっしょ、告げる少年の声にはさっきと同じ冷ややかな笑いが混じる。
「……それはそうですけど」
髪を揺らして俯くと彼は顎に手を当てた。
「何ていうか、君にはもっと、お腹の底からちゃんと笑って欲しいんです」
顔を上げてこちらを見た彼が真剣なのは伝わってきた。だから少年もそれ以上茶化す気にはなれなかった。
「腹の底からねぇ……」
少年は荒く毟り取られた足元に目をやった。
「……てかコレってさぁ、茹でたらうめーの?」
群生からたまたま見つけた四つ葉を差し出して彼に問う。
「え?」
彼が目を丸くした。少年は軽く頭を掻いた。
「生だとそーは食えねーからさ、大体ウマイとかマズイとか言ってる場合じゃなかったし」
「……そうですね、」
彼がふと微笑んだ。手周りに抜いた葉を幾らか束ねて少年に渡す。
「お浸しとか天麩羅とか、……そうだ、こっちの花も食べられるんですよ」
「あーそりゃ知ってる、」
少年の口元にも思わず笑みが零れた。二人して摘めるだけ両手に積んで畑を立ち上がる。――ひいふうみ、夕闇に紛れて三つ葉に混じった四つ葉を数える少年の腹がぐうと鳴った。
「お腹、すきましたよね」
――そろそろ帰りましょうか、にっこり笑って彼が言った。
「そろそろじゃねぇよソッコーっすよ、」
茜を覆って菫色に染まりかけた西の空を見上げ、摘んだ草を袂に詰めてのんびり笑っているばかりの彼の手を引く。土手を上がって行きながら少年は振り向かず呟いた。
「……やっぱさ、アンタのがガキだよな」
「そうですか?」
相変わらず暢気な様子に彼が返す。
「そりゃそーだよ、」
少年は大仰にため息をついた。「ちょっと目ェ離すとすーぐ迷子んなるし、全然じょーきょー把握しねぇし、」
「……そうかもしれませんね、」
くすくす笑う彼の振動が、繋いだ手のひら越しに伝わってくる。くすぐったくて泣きたくてだけど思い切り笑い出したいような、日没と追いかけっこの足早の道中、少年はずっとそんなおかしな気分だった。


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