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天気雨

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ざぁぁ。
ざぁぁ。

雨音がする。
空を見上げると、どんよりとした曇り空が私を見下げていた。

「嫌な雨だな」

そう、ぽつりと呟く。
と、背後の衛兵が私に向かって歩み寄ってきた。

「将軍。そろそろ軍議が始まります。天幕の中へいらしてください」
「わかった」

私は踵を返し、鎧と剣を衛兵に預けて天幕の中へと入った。

「おお、遅かったの。さあ、余の隣へ座れ、将軍」
「畏まりました、陛下」

中に入ると、簡易ながらもなかなか贅沢な誂えの玉座に座る、おっとりした青年が、私を呼ぶ。
今の私の主である。
前国王陛下の長子に当たるが、戦争狂と渾名された父と違って、物腰柔らかく、戦争というよりかは内政に長けている人だった。
私は一礼すると、陛下の右隣に腰を下ろした。

「陛下、此度の戦、軍編成はどうするのだ?」

私が座った直後、陛下の左隣に座っている男が喚いた。
この国において、私に次いで二の位に位置する将軍である。
陛下の奥方の兄、ということで登用されたのだが、近年稀に見る無能であった。
総大将として戦争に出たがるのだが、自分は安全なところに布陣し、敗勢濃厚となればすぐに逃げ出す。
これまで十数回、戦争に出ているが一度たりとも勝利したことがない。
国内でもかなり評判が悪いのだが、なぜか陛下からは信頼されているので、それゆえか、私はおろか陛下にすら横柄な口を利いている。

「そうじゃな。今回は将軍を総大将に、義兄上を副将として編成しようかと思うのじゃが、どうかの」
「それがよいだろう。将軍、異論はないか?」
「……私は構わない。陛下、ご裁可を」
「うむ、では将軍。見事敵軍を打ち破ってまいれ」
「はっ」

私は陛下に頭を下げながら、内心驚いていた。
あの無能が、あっさり私が総大将になることを認めたのだ。
ここ何度か、奴には総大将の座を奪われ、そして負け続けてきていた。
おかげさまでわが国の領土は、敵に一部切り取られてしまったのである。
だが、思わぬところで領土を奪回する好機が来た。
私は側近の私兵部隊も導入して、出陣した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

「では将軍、俺はこっちから回る。作戦通りの動きを期待しているぞ」
「わかった。其方こそ、しくじりの無い様にお願い申し上げたい」
「分かっておるわ。我が精鋭弓兵の力、とくと見せてやろう」

昼過ぎからカラッと空は晴れていたが、私の心はどんよりとしたままだった。
おかしい。
やけに今回、あの無能が協力的なのである。
私が副将として付き従ったときは、ここまで聞き分けがよくなく、兵の被害を抑えることに腐心していた。
私が総大将だからか、とも思ったが、奴のことだからそれはないだろう。
考案していた作戦も、筋は通っていて、なかなかよい策だと感じたが、何せあの無能である。
ろくな作戦を立てられなかった奴に、こんな見事な策が立てられるとも思わなかった。

「まあ、良いか。勝つことに越したことはない」

そう呟き、私は手綱を取った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


「勝ち鬨を上げよ! この戦、我らが勝利である!」

気分が良い。
戦前の鬱々とした気持ちは何処へやら、見事あの無能の策が的中して大勝利を収めたのである。
奪われた砦もすべて奪回し、領土は取り返した。
少し突出した感じはあるが、本来私は防戦の方が得意なのである。
砦さえあるなら、負ける可能性は皆無だった。

「副官、今日はこの砦で宿営するぞ。副将とは明日合流し、凱旋する」
「はっ」

今日は良く眠れそうだ。
そうだ、明日合流すれば、あの無能を褒めてやろう。
その価値は、今日の勝ち戦にあるはずだ。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

翌朝、私は砦に幾らか守備兵を残し、出立した。
昨夜少し雨が降ったのか、地面は聊か濡れている。
だが、空は素晴らしい快晴だった。

「将軍」
「なんだ?」

ふと後ろから兵に話しかけられた。
長年ともに戦ってきた兵の一人である。

「何かおかしくはありませぬか、将軍」
「何がだ?」
「見てくだされ」

兵が指差したのは、行軍している傍に居る、牛や山羊だった。
長閑に草を美味そうに食んでいる。

「山羊の何がおかしいのだ?」
「いえ、山羊ではありません」
「どういうことだ」

兵はゆっくりという。

「これは私の故郷の話なのですが、牧人はよっぽどのことがない限り家畜を置いてどこかには行きません」
「そういえば、さっきから人の姿がみえんな……」
「よっぽどのことといえば、軍の襲来などです」
「それは我らが通るからなのではないか?」

そういったが、何かが引っかかった。
よくよく考えてみると、牧人たちは逃げる必要はないはずである。
我々がたとえ軍だとしても、『自国』の牧人に狼藉をするわけがない。

「まさか……」
「合点いきましたか、将軍」
「ああ。今すぐに斥候を出して、辺りを探せ」

私はすぐにその兵に命令を出す。
四分の一刻もせずに、彼は帰ってきた。

「大変です、将軍! 辺りに敵軍が伏せております、その数およそ1万!」
「やられたな……。昨日の敗戦は餌だったか……っ!」

息つく間もなく、私は命令を出して陣形を変える。
多数の兵相手に、真面目に戦うことはできない。
こうなれば、紡錘陣形で突破するほかなかった。

「突撃準備!」
「然と!」
「成らば善し、突撃!」

私の号令に呼応し、兵たちの意気が上がる。
すでに待ち伏せの意味を失った敵兵たちは、ぞろぞろと湧いてきていた。

「敵に構うな、突破せよ!」

一団となって私たちは駆けた。
5000居た数は、次第に減り、ここ数年間主戦場としてきた場所にある大河にまで来たころには3000に減っていた。
だが、ここを超えればもはや安心である。
幸い、今は水も少なく、容易く渡河できるだろう。

「これでひとまず安心ですね、将軍」
「ああ、追っ手の軍も無いしな」

ようやく息ついた私は、馬を並足で進めながら、ゆったりと川を渡り始める。
だが河の中ごろについたときだった。
安堵のため息と同時に、地面が揺れた気がした。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

そもそも、可笑しかったのだ。
前々日は一日中雨が降り。
前日は夜間に雨が降っていた。
そんな状態なのに、河の水が少ないわけが無かったのだ。
本来ならば。

荒れ狂う濁流は、3000の人馬を容易に薙ぎ払った。
残ったのは、私と、10数人の兵だけだった。
その全員が、もはや碌に立てない状態になりつつある。
私も例外ではなく、どうやら肋骨の数本が折れている。

「無様だな、将軍」

聞きなれた声がした。

「ようやく、俺がこの国の頂点に立てる。もともとそうなるべきだったのだがね」

高笑いしながら、そう嘯く無能の姿がそこにはあった。

「きさ、ま……。裏切り、か」
「裏切り? はて、なんのことやら、さっぱり分からんな」

下卑た笑いを見せる奴を尻目に、すでに私は意識を失いつつあった。
作品名:天気雨 作家名:Vaclav