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D.o.A. ep.1~7

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「……」

うっすらと目蓋を上げて、瞬きを数度繰り返す。
消毒液のにおいと、白い天井。少なくともあの世ではない。
身を起こそうとすると、右の手首と胸の辺りがひどくいたみ、顔が引き攣る。
「ライ!」
聞き慣れた女の声が、名を呼ぶ。横たわっている彼をひどく心配気な茶の瞳が見下ろしている。
「よか…良かったっ、ほんとうに。目を覚まさないかと、思った」
シーツの中にあったライルの手をそっと握りしめて、俯いた。肩を震わせて泣いている。
リノンも無事でよかった、そう声をかけようとしたが、喉がヒュウ、と鳴っただけに留まる。
「声、出ないの?」
首肯する。ベッドの横に椅子をくっつけて腰かけていた彼女は、待ってて、と立ち上がってどこかへ行ってしまう。

目の奥と頭がぼんやりと重い。熱があるみたいに、顔が熱かった。
手を上げて、目の前に持ってくる。確かこの手の平には、木片や釘が刺さったはずだが、傷跡もない。
だれかが治療してくれたのだろう。しかし、ならば、右手首と胸の辺りがいまだ尋常でないほどずきずき痛むのはなぜなのか。
熱にうかされたようなにぶい頭で、状況を整理する。まずここはどこなのだ。天井しか見えなかった視界を、首を動かし広げてみる。
半分ほど減っている点滴の袋、そこから管が伸びて、ライルの左腕へつながれていた。
窓の外は曇天。しかし、雲の隙間から陽の光が差している。
それから首を戻して、ここが病院であることをさとった。
あの男に挑みかかり、殺されかけたが、どうやら助かったようだ。あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。

しばらくして、リノンが老いた医者を連れて戻ってきた。
目の様子を見て、頬、首などに順番に触れていく。やがて口をあけて、そう言われたので、従った。
「声が出ないのは一時的なもんだから心配せんでよろしい」
「そうですか、よかった」
「きみは五日、眠ったままだったよ。あれだけの怪我にしては、意識の回復も肉体の回復も早いけどね。
いや、ひどいもんだった。容赦なく急所あたりを切り裂いてたんで、運ばれてきたときはもう駄目かと思ったが…そこのお嬢さんが必死に手を尽くしてくれたよ」
「………」
声が出ず、訊きたいことが言葉に出せないのがもどかしい。
医者は金魚のように口をぱくぱくさせるライルにしきりにうなずき、
「なんで胸と手首は治ってないの、と。お嬢さん、なぜかね」
―――伝わっていた。
「ホントは治してあげたかったけど、なんか変な傷でね、がんばったのに魔術の効きが悪いの」
「との、ことだよ。感謝しておくように、ほとんど寝ることもなく、きみをそばでずっと心配していた」

不意に涙がこみ上げた。熱のついでに涙腺が緩んでいる。
生き残りは、彼が見た限りでは絶望的だった。リノンも、きっと殺されたと思った。
自分の手で守ったわけではないが、生きていてくれたのだ。ライルは喉から空気の音をさせながら、泣き笑いの顔を作った。

「村の人は、あんた以外、村の外に出てた私と、マリーさんとその旦那さんを除いて、死んだって聞いたわ」
(どうして、マリーさんたちは)
「妊娠の経過を確かめるために、病院へ出かけてたの。二人ともあんたの事、すごく心配してたよ。後でお見舞いに来てくれるって」
(あの後、どうなったの)
「巡回中の兵士さんが村の異様さに気付いて、それで、すぐ王都へ戻って…、村にいた魔物はみんな軍が片付けたみたい。あんた、教会の中で倒れてたのを発見されたの」
医者の通訳をとおして、リノンに問うていく。医者は読唇術が得意らしかった。
(教会には、俺のほかに、誰かいた?)
「村の人が七人…全員、無残な殺され方をしてたって…詳しくは聞いてないわ」
あの男は、兵士たちが駆けつけた頃には、既に去っていたらしい。
「あんたを助けた、王国軍の中佐のフェルデって人が、話を聞きたいって言ってるけど…どうする?イヤならイヤって、首を振って」

かく言うリノンは、なんとなく嫌がって欲しそうに見えた。報告書のために、忌まわしい記憶をつついてほじくり返す軍人に敵意を抱いているようだ。
だが、ここは答える義務があろう。魔物が村を滅ぼすほどに暴れまわるなんて、近年例を見ない大事件である。とは言っても、その理由はライルにもわからないので、答えようがないが。
それに、あの男が見つからなかったということは、逃げたということだ。あんな危険人物の存在を黙っているわけにはいかない。
なんとなく、あの男が原因のような気がするのだ。根拠はないが。
不吉な、猫を思わせる金色の目。意識がなくなる直前も、口をゆがめて笑っていた。
あんな残忍な男を他に知らないが、最近どこかで似た人物を見た気がする。




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作品名:D.o.A. ep.1~7 作家名:har