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ラベンダー
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novelistID. 16841
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔(2)~

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「あっはっはー!蛇行してるよー!」

雄作は、運転しながらそう笑っている槙人(まきと)の腕を押さえた。

「もう車止めろよっ!危ないよ!…それに飲酒運転だってばれたら…ポリにやられる…」

雄作は必死にそう言いながら、その槙人の腕を掴むが、槙人はふざけて、夜中の公道を蛇行して走っている。
とにかく、車を止めなければならない。…そもそも運転させた事が間違いだった。
というより、飲みに行くというのに、槙人が車で来ていた事にも驚いていた。
代行運転を頼もうと、雄作は言ったのだが「あんまり飲んでないから大丈夫だよ。」と槙人は言い、ほとんどシラフに見えたので、雄作も乗りこんでしまった。
それが…運転してから数分で槙人の様子が変わってしまった。

「おいっ!止めろっ!本当に危ないって!」
「あははーっ!誰もこんな夜中走らないってっ!ほーらほーら…」
「おいっ!!」

突然「ガンッ」と何かを跳ね飛ばした衝撃を感じた。

「!!」

槙人は急ブレーキをかけた。…だが、蛇行していたとはいえ、スピードを上げていたためすぐには止まらなかった。
嫌な金属音のような音を立てて、車は止まった。
雄作は前のダッシュボードを、両手で押さえるようにして目を閉じていた。
槙人もハンドルにしがみついたまま、頭を伏せている。

…衝撃を確かに感じた。何かにぶつけた。…いや…ひいたのか…。
2人はしばらく動かなかった。

……

翌朝-

雄作は朝のニュースを見ていた。
…ひき逃げのニュースがあった。…昨夜、槙人と通った道だった。…そして、あの衝撃を感じた場所で、認知症の老女がひき逃げされたと報じられていた。

「…絶対に…俺たちだ…」

雄作は震えながら呟いた。

…あの衝撃の後、槙人は何も確認することもなく、車をバックさせ無理やりUターンすると、スピードを上げて逃げだしたのだ。

「だめだっ!戻れっ!」

雄作が言った。だが槙人は首を振りながら言った。

「嫌だっ!捕まったら全てが終わりだっ!仕事も…彼女も…おれの人生も…」
「ばかっ!いつかは捕まるんだぞ!自首したら罪が少しは軽く…」
「嫌だーっ!!」

槙人は気が狂ったように叫びながら、猛スピードで車を走らせた。
…後は、雄作もよく覚えていない。自分もパニックを起こしていたのは確かだ。
気がついたら、自宅のベッドで寝ていた。…だが、あの車ごと感じた衝撃だけは鮮明に覚えていた。

「…自首させよう…。俺も…一緒に行って…」

雄作は震えながら、携帯電話を取り出し、槙人の電話番号を表示した。

…電話はつながらなかった。
虚しく呼び出し音がしばらくなった後、留守番電話サービスに入ってしまう。
5回かけ直して、雄作は観念して留守番電話に向かって言った。

「…俺だよ…雄作。…自首しよう。俺も一緒に行くから。お前だけのせいにはしないから。…今から家に行くから、待ってるんだぞ。」

雄作は電話を切った。

……

会社に休むことを連絡し、雄作は槙人の家に向かった。電車で30分かかる場所だ。
…雄作は今になって、電話をしたことを後悔していた。
…もしかすると、あの電話で槙人は逃げたかもしれない。
もしそうなら…自分ひとりで自首しようと思っていた。

(警察署はどこでもいいのかな…)

電車の中でぼんやりと考えていた。乗客の女子高生たちが楽しそうに話しながら笑っている。

(あの子たちは、これからも変わらない生活を送るんだ。)

雄作はそう思った。…そして自分は、これから刑務所の中で何年暮らすことになるんだろう…と思った。

(…黙っていたらどうなるんだろう?…もし、あいつだけがうまく逃げきれたら?)

雄作の頭に、よくない考えが浮かんだ。

(俺だけが刑務所に入って、あいつが逃げきれたら?…俺だけが貧乏くじを引くのか?…それは嫌だ…)

さっきまでは、死なせてしまった老女に対して、申し訳ない思いがあった。…だが、徐々にそれが薄れて来ていた。

(…もし、あいつが家にいなかったら、俺も逃げよう…。そうだ…元々はあいつが車で来たのが間違いだったんだ!…俺のせいじゃない!)

雄作はそう思い唇を噛んだ。

……

雄作は槙人のアパートの呼び鈴を押した。
…反応がない。

「おいっ雄作だよ!いるなら開けろっ!」

雄作はそう言い、ドアを叩いた。
…しかし返事はなかった。
中に人がいる気配もないような気がする。…雄作はもう1度、携帯電話に電話してみた。
呼び出し音はなるが出ない。…また留守番電話サービスに入った。

(中から携帯が鳴る音も聞こえなかった…ということは…!…あいつもう逃げたのかっ!!)

雄作は「しまった!」と言い、駐車場に回った。

「…やっぱり…」

車はなかった。…しかし人を当てたとしたら、車になんらかの形跡が残るはずである。…その形跡を残した車で逃げたとしても捕まるのも時間の問題だと思った。

(どうせいつかは捕まる…。それまで普通の生活を楽しもう。)

雄作はそう決意すると、駅に向かって歩き出した。

……

駅に着いた。ふと見渡すとショッピングセンターの入り口が見えた。

(せっかくだから、何か贅沢するか。…捕まったらもう贅沢もできないしな。)

雄作はそう思いつくと、ショッピングセンターの中へ入った。
平日にも関わらず、人が多かった。ほとんどが、母親と子供だ。

(…俺…結婚できるのかな…)

ふとそう思った。捕まったら犯罪者だ。刑務所を出たら前科を持つことになる。

(結婚はあきらめるか…。子どもができても…子どもが可哀想だしな。)

そう雄作は思いながら、ぶらぶらと歩いた。すると子ども達の笑い声が聞こえた。
その笑い声のする方を見ると「浅野俊介マジック教室」という看板が見え、その下でイベントが行われていた。

「…ちょっと待てよー…今、タネ隠してるからー…」

半そでの黒Tシャツに黒のスリムジーパンという出で立ちの男が、そう言いながら後ろを向いて、ごそごそと何かをしながら言っている。
子どもが笑っている。一人の子どもが、長テーブルに乗りかかり覗こうとした。

「こらっ!覗いちゃ、やっ!」

浅野がそう言い、子どもたちが笑った。

(あー…浅野俊介って聞いたことあるなぁ…。前にテレビで「イリュージョンショー」ってのをやってたっけ…。こんな地味な仕事もするんだなぁ。)

雄作はそう思いながら立ち止まり、離れた所から浅野と子どもたちをぼんやりと見ていた。

「ここにスポンジがありまーす!」

浅野がスポンジを親指と人差し指に挟み、丸いスポンジを子どもたちや後ろにいる母親達に見えるように見せている。

「はい、そこのキミ、手を出して。」

浅野はさっきテーブルを乗り越えようとした男児に言った。
男児は嬉しそうに小さな手を差し出した。

「ぎゅっと握って。」

男児は強く握り、目もぎゅっと閉じた。

「目は開けていいんだよ!」

浅野が笑いながら言うと、その場にいた全員が笑った。
男児は目を開けて、恥ずかしそうに笑っている

「では数を数えます。はい、1、2、3!…さぁ、手を開いて?」

浅野がそう言うと、男児は恐る恐る手を開いた。
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