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Knockin’on heaven’s door

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 振り向いた中川さんはすっかり笑顔に戻っていて安心したのだが、今日見た笑顔の中でも少し違う、まるで少年のような純粋な笑顔で僕に話しかけてくれた。
「もうすぐお別れなんだろ? なんとなく分かるよ。……出来れば高野君、このボールは君に持っていてもらえると嬉しいのだが、受け取ってくれるかい?」
 中川さんはそう言って、少し汚れたボールをアンダートスで僕に投げてきた。
「天国にいってからのキャッチボールのためですか? って、これさっきのじゃないですよね?」
「最初で最後、唯一の勝ち星の付いた試合のボールだよ。妻が棺に入れてくれてたから持ってこれた……」
「そ、そんな大事な物なら僕は預かれませんよ」
「俺も大事な物だと思っていた、だから今まで大事に持っていた。でも、きっと違ってたんだよ。このボールを持っていたら、いつまでもあの一勝だけで満足してしまうんだ。だから……」
 中川さんはとても真剣な表情で、強い決意を持った眼差しだった。
「分かりました、僕でよければ預からせてもらいます。でも僕だっていずれ天国に行くんですから、その時はまたやりましょうよ」
「ああ、俺が生まれ変わるまでには昇ってきてくれよ。それまで自主練して待ってるよ」
 一段と輝きを増した中川さんの体は徐々に浮き上がり、手を伸ばしても届かないほどまでとなっていた。僕は慌てて預かったボールを強く握って、旅立つ中川さんに目掛けて掲げた。

 ――きっとこれが、前世で最後の後悔の種。安心して天国へと召されてください。

 気付けば夕方近くなり、足元の公園にはすでに誰もいなくなっていた。まだ微かに残る左手の感覚を、僕はなんだか「勿体無い」と感じて軽く拳を握る。その感覚もいずれは消えてしまう、その頃には中川さんも天国へ着いて新しい人生への準備が始まる事だろう。
 そして今日も、僕は見送って一人残された。「いつまでも見送る側で居続ける」と決めて残される覚悟は出来ていると思っていたのに、最近はその事が不安や孤独感となって大きく膨らんでいる事に気付いた。
「僕が昇天する時は、あんなふうに笑顔でいられるのだろうか……」
 一人きりとなった僕は中川さんから預かったボールと、キャッチボールで使っていた二つのグローブを取り上げて公園上空を後にした。

 いつかまたキャッチボールが出来たらいいな、と思いながら……。


作品名:Knockin’on heaven’s door 作家名:みゅぐ