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海に沈む

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星が瞬いていました。
 その光に負けないくらい、夜の海は、ちかちか、ちかちか、さざなみの中に輝きを織り込んでいました。お月さまか、遠くでゆっくりと回る灯台のランプか、はたまた、街の明かりか。いえ、違います。海そのものが、光を放っているのです。
 それは、生まれては弾ける白いあぶく。音もなく消えた途端、新しく水底から湧き上がり、いくつもいくつも、数え切れぬほど。
 新月なのに、闇に慣れた眼で眺めれば、遥かへ広がる海原はこれほどまでに煌めくのです。がたぴし揺れる後部座席で、僕は遠い沖の穏やかな波を眺めていました。車のライトは右側が壊れていて、真夜中の黒さは殆んど邪魔されず、闇の中の海を、窓ガラスヘ顔をくっつけるようにして、見つめていました。


 車が道路沿いで静かに止まり、エンジンも切られると、閉め切った車の中にまで、打ち寄せる波の音が入り込んできました。後は、そう、運転席でハンドルに覆いかぶさっている父の、静かな呼吸を時たま耳にするだけです。
 もともと大柄な人ではありませんでしたが、家を出る前、上着に袖を通していた父は、年のせいか幾分小さく、丸く見えたものでした。それが、こんなにも近くにいると、やはり、その背中は広い。父は、船乗りでした。3年前に陸に上がり、故郷の小さな町で、けむくじゃらの犬と一緒に暮らしていました。男らしく、しっかりとした、海の男そのものでした。

 
 最後に大きな息を吐いた父は、ゆっくりと身体を起こし、運転席のドアを開け放ちました。磯の匂いのする生暖かい風が、車の中を駆け巡りました。まるで友達のように助手席に乗せてあった(それが、僕には、とてつもなく嬉しかった!)缶を掴み、大きな一歩、二歩、三歩で、海に向かいます。僕も慌てて車から降り、父の後を追いました。
 ガードレールに寄りかかった父の隣で、真似をして身を乗り出すと、顔をぴりぴりと潮が叩きます。時には砕ける波飛沫が、体中に飛び散ります。恐る恐る、父の顔を覗えば、いつもの難しい顔。唇をへの字にまげて、遠くを走る船を見つけようとしているかのように、水平線へ眼を凝らしていました。癖なのか、この温かさが気に入らないのか。僕にはわかりませんでしたが。きっと、船に乗っていたときも、こんな顔でずっと、ぐるり辺りを見回していたのでしょう。その勇ましい姿を見ることが出来なかったのが、とても残念です。
 
作品名:海に沈む 作家名:セールス・マン