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贈り物

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今年のクリスマスは、下弦の月だった。深夜残業で、終電に駆け込み乗車して帰って来た。すでに、日付けは変わってて、コンビニの袋を手にして、ふらふらと土手を歩いていた。川向こうには田んぼが広がっていて、その向こうに、大きな下弦の月があったので、俺は、それを眺めつつ家に向かっていた。

 さすがに、この時間では、うちの旦那も寝てしまっただろうから、晩メシは簡単なものを買ってきた。煮たりレンジするりも面倒で、とりあえず、おでんとコンビニおにぎりという陣容だ。

 うちの家には、クリスマスなんてものはない。イヴもイヴイヴも仕事で、ど派手に残業する俺には、そんなもんより睡眠のほうが大事やからや。今は、掻き入れ時で、仕事も終わりまで時間がかかる。うちの会社では例年そんなことやから、みんな、慣れたもんで気にしない。子供がいる人間だけは、イヴかイヴイヴはどちらか定時で上がれるようにはしている。

 俺には、そういうのはないので、この時期は残業担当だ、その代わり、新年はゆっくりと休ませて貰うことにしている。ようやく、土手から外れる。ほな、おやすみ、と、付き合ってもろた下弦の月に挨拶だけした。

 ハイツの階段を静かに登って、鍵を開けたら、部屋には明かりがあった。もう寝やんと、明日がしんどいやろうに、と、思いつつ廊下を進んだら、居間の入り口で、クラッカーをお見舞いされた。

「おかえり、ハニー。」

 俺の旦那は楽しそうに笑って、俺からコンビニの袋を取り上げる。

「一回、三途の川で泳ぐか? ダーリン。」

「今頃、寒いからやめてくれ。とりあえず、風呂入って温まり。メシは、すぐに温めるからな。」

「いや、もうええから、おまえ、寝ぇーよ。」

「まあまあ、用意したら寝るさかい。」

 俺の旦那は、この時期は、いつも帰るまで待っている。俺は放置すると、メシも風呂もパスするからだ。だが、旦那も勤め人やから、こんな深夜まで起こしとくのは、申し訳ないとは思う。思うんやが、起きてなかったら寂しいのも事実や。なんだかんだと言いながら、俺は旦那の「おかえり」を聞きたいし、旦那は、俺の顔を見たいらしい。

 カラスの行水で風呂から出たら、コンビニのおでんは鍋焼きに変身していた。

「あ? 」

「あんな、あれ、野菜全然ないんよ? せやから、これにしとき。これ、ちゃんと冷ましてあるから早、食えるで? 」

 おでんは、そのまんま台所の机の上に放置されていた。

「せやけど、もったいないやんか? 」

「あれは、明日、俺の晩メシにするからかまへん。ほんで、俺は賢いので、野菜も食うからな。今日は、中華ソバにしといたで? 」

 鍋のフタをあけると、少しだけ湯気が上がったが、とても冷めている。猫舌の俺は、こいうもんは冷やさんと食えんので、こういうことになる。その横に、温いお茶も置かれた。そして、なぜか、さらに、コンビニの葛餅や。

「甘いモンはいらん。」

「まあまあ、そう言うな。これは、俺の夜食やからな。」

 俺が食べる相手をするために用意したものだ。一人で食べるより、二人で食べたほうがいいというのが、俺の旦那の持論だ。

 ふうふうと野菜だらけの中華ソバを食いつつ、今日は下弦の月やったことを話した。旦那が帰る頃には、まだ空にはなかったので、ほおうとベランダへ観に行きよった。ほんまやなあ、と、言いつつ戻ってくる。

「ここんとこ、雪降っとったのに、肝腎の日には天気てなあ。」

「クリスマスに雪降るほうが珍しいんちゃうか? 」

「せやろか? 昔は積もったこともあったけどなあ。」

「ふーん、せやったかなあ。俺には記憶ないけどな。」

「うちは現実派やったから、うちの親は、サンタがいてへんことを、小学校一年生の俺にバラしよったわ。プレゼントも予算枠決められててな、夢も希望もあらへんかった。」

「プレゼント、俺、おまえのは覚えてるわ。最初、ケーキやった。ほんで、次の年は、ベルトくれてな、次はマフラーでな、ほんで、俺、止めたんよ。もったいないから。」

 俺がクリスマスプレゼントなんてものを貰った記憶は、旦那からが始めてだ。もしかしたら、祖父母はくれたかもしれへんが、記憶に残ってない。この時期は、忙しくて俺には家に帰るだけで手一杯やったから、プレゼントしたことはない。旦那は、同居してから毎年、マメに用意してくれるので、心苦しくなって、もったいない、と、叱ってやめさせた。それからは、ケーキもないし、プレゼントもない。ただの日になった。

「よう覚えるなあ? 俺、ブツまでは記憶ないわ。・・・・・・でも、俺、おまえから毎年、今ももうてんねんけどな。」

「はい? どっか壊れてた? 花月。」

「おまえを抱き枕にして体温もろてるやん? ええプレゼントやで? ぬくいし、たまにええことできるしな。」

「・・・・なあ、花月・・・・」

「ん? 」

「ほんまに、一回でええから三途の川でスイミングしてきゃーへんか? ほんだら、おまえのおかしな言動も、冷たい水でしゃっきりすると思うんや。」

「はははは・・・そんなんしたら、おまえ、俺の体温をもらわれへんぞ? 冷たい布団で寝るんか? 」

 そう言われると、それは困る。俺は寒がりなので、花月が湯タンポの代わりだ。電気毛布もあることはあるが、あれより、これのほうが温いのだ。

「しもたわ、それはあかん。」

「ははは、せやろ? ほな、寝まひょうか? 」

 だらだらと喋りながら、中華ソバを食べつくした。それを見計らって、旦那が声をかける。まだ、身体は温かい。このまま布団に抱き枕と飛び込めば、今夜もすっきり眠れるやろう。

「サンタさん、温かい枕おおきに。」

「俺は、トナカイに運ばれてへんわっっ。」

 ほんまにもう、と、文句を吐きつつ、温められた寝室に入る。うちの家、毎日、プレゼント交換してるらしい。あほくさ。

作品名:贈り物 作家名:篠義